やれやれ、僕らはどうやらアタナソフ&ベリー・コンピュータが生まれてこのかた、人工知能のためのデータづくりに70年ほどを費やしてきたらしい。アタナソフ&ベリー・コンピュータは、ご存じのとおりコンピュータの最初のモデルの一つ。1942年に完成したといわれている。そこからデータを入出力するデバイス、プロセッサ、メモリ、ネットワーク、データベースなどの進化が凄いスピードで進んできた。
私のまわりでも人工知能のディープラーニングを加速化させる兆候がいくつもみえる。一つは、クラウドソーシング上にみられるようになったディープラーニング用のデータ作成だ。顧客とのやり取りの受け答えのデータ作成を依頼するジョブが増えてきている。
もう一つは、米国で爆発的に売れているAmazonのEchoだ。使用者の声で、「アレクサ!あれやって」と話しかけるだけで、ウェブの検索や電気のオンオフ、お店の予約までやってくれる。AppleのSiriのように機能をオンにしなくても、常にオンの状態でマイクが周辺の音を聞いている。プロセスのすべてがローカルで行なわれるとは思えないので、もしかしたらすべての家庭の音や会話が筒抜けになる。そして、データ化される。
こうした文脈で読み解くと、IoTでさえHAL9000(映画『2001年宇宙の旅』に登場した人工知能を搭載したコンピュータ)が考えたロードマップの上にある展開にも思える。
世の中の事象のほとんどがデータ化され、ネットにつながり、人工知能はどんどん賢くなる。ロジックが生み出され自動化される。必要とされる仕事の種類は変わってゆく。私たちがなすべきは、テレワークやハッピーフライデーといった手法の導入の前に、「これからの環境で働くということは、どういうことか?」という本質を考え直すこと。そして新しいしくみ=共同幻想をつくり上げること。さらには、「自分たちの暮らしは、どうありたいのか?」を自分たちで考えること。暮らし方があっての働き方である。
コンピュータに暮らし方をリコメンドされる前に、時間をとって暮らし方をもう一度真剣に考えよう。HAL9000のスイッチを切ることはできない。
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎

勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
1964年2月生まれ。奄美大島出身。98年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年、ヤンマー入社、情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。NPO法人離島経済新聞社理事、鹿児島県奄美市産業創出プロデューサー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。