金融分野でFinTechへの取り組みが活発化したことにより、さまざまな分野で「xxTech」を掲げ、ITを活用した新しい取り組みが進められるようになった。不動産分野では「ReTech(Real Estate Technology)」。IoTやAIを組み合わせた賃貸物件管理や遠隔操作による施錠など、ITの適用範囲が急速に拡大していることから、ReTechへの注目度が増してきている。不動産分野におけるシステム構築の経験とノウハウが豊富なシステムソフトは、ReTechへの取り組みを強化することによって、新たな成長分野を見出そうとしている。(取材・文/畔上文昭)
創業時はゲーム開発会社
岡部正寛
代表取締役社長
福岡で創業したシステムソフトは当初、ゲームソフトの開発会社だった。「ロードランナーなど、いくつかのヒットを飛ばしたが、ゲーム業界は浮き沈みが激しいため、事業の多角化を進めてきた。アップルのMacintoshは、日本で最初の代理店。アドビ システムズ製品の日本語化を手がけたことも。その後は企業向けのシステム開発へと事業を転換し、現在に至っている」と、岡部正寛代表取締役社長は同社の成り立ちについて語る。現在では、本社を東京に移したが、福岡にも福岡本社としてオフィスを置いている。
岡部社長は、2017年1月に現職に就いた。それまでは、自身で立ち上げたコンサルティング会社を経営していたが、ヘッドハンティングでシステムソフトの社長となる。「ITの分野はテクノロジーのパラダイムシフトの最中にある。新しいことにチャレンジするためのチャンスがいくらでもある。これからのビジネスは、ITが核になるのは間違いない」と確信し、引き受けたという。現在は事業拡大を目指し、積極的に新しい分野に取り組もうとしている。その一つが、ReTechだ。
システムソフトは一時、不動産賃貸仲介業界大手のアパマンショップネットワーク(現在のアパマンショップホールディングス)の傘下にあった。その後、独立することになるが、同ホールディングスのシステム関連は現在でも一手に引き受けている。そのため、不動産分野に多くの実績とノウハウがあり、ReTechへの取り組みは強い分野の拡張ということになる。
「新たな事業展開を考えるにあたって、やはり勝てるフィールドで勝負するのが定石。新しいビジョンや経営戦略は、まさに整理しているところだが、ReTechは重要な分野であることは間違いない」と岡部社長は将来の構想を描いている。16年5月に設立したさくらインターネットとの合弁会社のS2iでは、リモートロックなどのHome IoT事業を展開しており、岡部社長は同社を起点としたReTechの展開も構想している。
SESも事業の柱の一つ
システムソフトは、福岡で創業し、企業向けのシステム開発へと事業を転換してきた経緯から、福岡に多くの顧客を抱えている。それも、ほとんどが長いつき合いで、SES(System Engineering Service)などを提供している。ReTechと比べると、先進性には劣るが安定的な収益を上げられるビジネスである。
「SESはリーマン・ショックで単価が落ちたまま、上がっていない。より高い単価のビジネスへとシフトしていくべきだが、既存の顧客も大切。そのため、値上げを理解いただけるような価値を提供しなければいけないと考えている」と岡部社長。IT業界は人手不足の状態にあり、IT活用の範囲が拡大していることから、今後も続く可能性が高い。それは単価を上げるチャンスでもある。「当社は、福岡では老舗のSIerということもあり、九州のすばらしい人材を確保しやすい環境にある」(岡部社長)ことから、この強みを生かし、SESの事業を強化していく考えだ。
ただし、SESのあり方も、ITの進歩によって変わっていく可能性があるため、岡部社長は「いつまでも現状を維持できるとは限らない。状況を見極めながら、当社の強みを生かすことができる価値のあるサービスへとシフトしていくことも重要」だと考えている。
なお、システムソフトは、技術支援・研究を行う100%子会社のfabbit、そしてコワーキングスペース「fabbit」を運営するfabbit alpha(fabbitの100%子会社)とともに、カンファレンスの開催などによって、スタートアップの支援にも取り組んでいる。岡部社長は、「IT分野は大チャンスの時代。スタートアップ支援のエコシステムを増殖させていきたい」と投資意欲をみせている。