一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
略歴
久保田 裕(くぼた ゆたか)
1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
著作権法の権威である成蹊大学法学部名誉教授の紋谷暢男先生が生前、「著作権とは生活様式の総体としての文化を守るものだ」と言われていた。
私は、父が電力会社の転勤族だったことから地方を転々として育った。そのためか田舎が大好きだ。そこには現在も生活様式の総体としての文化が脈々と息づいている。出張などで地方に行くと、この文化をICTという枠で捉え直し、情報としてどう発信して地域の魅力を伝えられるかといつも考える。
そのICTと地域文化を考えるうえで、先進地として知られるのが徳島県上勝町だ。料理のつまものである葉っぱを商品化、全国の市場からの注文は農家に一斉に伝達される。この伝達手段は、当初のFAXからパソコンに替わり、今は多くの農家がタブレット端末も併用しているそうだ。注文取りは農家間での競争であり、人より早く注文を手にするために、パソコンやタブレット端末を性能の高いものに買い替えようとする動きもあると聞く。さらに、上勝町の隣にある神山町や県南にある美波町では、ICT関連企業がサテライトオフィスを開設して活況だという。通信機器やインターネット技術の発展が、田舎の町の仕事のあり方を変えている。
一方で、その地で受け継がれてきた文化を守り発展させるためにICTを活用する例もある。先に挙げた上勝町は、阿波晩茶という珍しい乳酸発酵茶の産地でもある。近年、腸内環境を整えるとメディアで紹介されたこともあり、地元以外では入手が難しい幻といっていいほどのお茶だ。
その上勝阿波晩茶も、最近は生産者が高齢化し、人気の高まりと反比例するように生産が難しくなっている。それでも、移住者を含む若手が奮起し、イベント開催の資金をクラウドファンディングで調達したり、SNSで情報発信するなどして、この珍しいお茶文化の継承に取り組んでいる。
このような事例をみるにつけ、生活様式の総体としての文化を守るものとして、著作権とICTは、異なる概念のようにみえて、実は目的とする本質は同じではないかと考えている。本稿が掲載される頃、熊本県立南陵高校で、農業と著作権を考えるをテーマに先生と生徒に向けて講演を行う。とても楽しみな企画だ。
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕

久保田 裕(くぼた ゆたか)
1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。