旧知のソリューションベンダーの社長から久しぶりに電話があり、同社のソリューションのクラウド化の相談をいただいた。最初のクラウド化の相談は5、6年前だったろうか?
それから幾度か話があったものの、いずれも具体的な話には至らなかった。業界トップベンダーの同社ゆえ、クラウド化する必要に迫られてはいなかったということだろう。クラウド化の相談をされながら、社長自らクラウドサービスの問題点を語るなど、できればクラウドにはいきたくないという気持ちがうかがえた。
だが、今回はかなり様子が違った。ユーザーからのクラウド利用の要望が高まっていることに始まり、自社製品コードのウェブ対応が技術的・経済的に難しいこと、クラウド化のための技術ノウハウが乏しく自社エンジニアがクラウド化に自信をもてないこと、そしていろいろなクラウド基盤サービスの利点・欠点やそのコスト構造がわからないことなど、相談内容が大変具体的なものに変わっていた。
「レガシーアプリケーションをクラウドサービス化するには、クラウド基盤技術と仮想デスクトップ技術を組み合わせれば」というほど、事は簡単ではない。仮想デスクトップ技術によるクラウド化を行ったソリューションベンダーが、業務用周辺機器や画像データなどをクラウド環境に統合できず、中途半端なクラウド化に終わっているとの話を聞く。何年か前に、大手ハードウェアベンダーの知己から、システムインテグレータが多様で複雑な技術ノウハウを要求されるシンクライアント技術を避けて、より技術リスクの低い仮想デスクトップ技術へ逃げる傾向があり、国内にはアプリケーション仮想化周辺の技術者が育っていないと聞かされたことを思い出す。そのツケがここへきて出てきているのではなかろうか。
いつのことだったか、大手通信企業の役員とクラウド市場について意見交換をした際、「CRM/SFAレベルまで海外製品に奪われてしまいましたね」と言われたことを思い出す。通信やクラウド基盤技術にとどまらず、今や、オフィスデスクトップや一部業務アプリケーションまで海外製品に市場を奪われてしまっている。多様で良質な国産の業務ソリューションのクラウド化がなかなか進んでいないことが気がかりである。
一般社団法人 みんなのクラウド 理事 松田利夫
略歴
松田 利夫(まつだ としお)

1947年10月、東京・八王子市生まれ。72年、慶應義塾大学工学部管理工学科卒業。94年から山梨学院大学経営情報学部助教授に就任し、現在、同学部教授。00年11月、きっとエイエスピーを設立し、代表取締役社長に就任。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。