組み込みソフト開発を得意とするアックスは、小型軽量なAIや自動運転のソフトウェア開発の領域で強みを発揮している。組み込みデバイスにも使える小型軽量なAIソフトを独自に開発したり、産学連携の自動運転プロジェクトに積極的に参画。組み込みソフト開発で「高度技術者が活躍できる場が少なすぎる」と課題意識を持つ竹岡尚三・代表取締役社長は、そうした技術者が力を発揮できる場を広げる取り組みに力を入れる。(取材・文/安藤章司)
Company Data
会社名 アックス
所在地 京都市中京区
設立 1992年4月
資本金 2億6540万円
従業員数 約20人
事業概要 組み込みソフト開発ベンダーで、組み込み用AIとして使える「ごまめ」の開発や、OSSの自動運転用のソフト「Autoware」を活用したシステム構築や技術サポートが強み。竹岡尚三・代表取締役社長は組込みシステム技術協会(JASA)の技術本部長を務めている。
URL:http://www.axe-inc.co.jp/
小型軽量AIや自動運転ソフトに進出
竹岡尚三
代表取締役社長
アックスは創業26年になるソフト開発ベンダー。かつては従来型の携帯電話や電子手帳といった日本の電機メーカーが得意としていた電子機器向けの組み込みソフト開発を手掛けていた。だが、こうした電子機器はスマートフォンに収れんしていくかたちで、新規の開発案件がほぼ消滅。アックスも開発人員の規模を縮小せざる得ない時期があった。
しかし、もともと大学でコンピューター科学を専門に修めた高度人材が中心メンバーとなっているアックスは、持ち前の技術力を生かして小型軽量AIや自動運転分野へ進出。自分たちの強みを生かしつつ、ビジネスを伸ばす道筋をつけることに成功した。
竹岡社長は「組み込みソフト開発の業界で、コンピューター科学の専門家が開発に取り組んでいるのは、実はごく限られている。防衛宇宙など特殊な分野だけ。この現状を変えたい」として、コンピューター科学の修士卒の優れた人材を集めて、組み込みデバイスにも使える小型軽量のAI開発や、産学連携に参画してきた。仕事があれば、より多くの専門家を集められるし、組み込みソフト開発のレベルアップにもつなげられるからだ。
AI開発では、人間だったら当たり前の「一般常識」の部分と「機械学習」機能を別々に分けた。全てを機械学習でまかなってしまうと強力なITリソースが必要となるが、「一目見れば分かる」ような“常識”部分を切り出すことで、機械学習の部分を大幅に小型化。組み込み用AIとしても使えるサイズにしている。それを「ごまめ」と名付けた。
例えば、アヒルとウサギがいるとする。両方とも白くて丸っこく、突起物(耳とクチバシ)がある。機械学習だけで判別しようとすると、まとまったボリュームのITリソースが必要だが、ごまめでは「水の上にいればアヒル」「陸にいればウサギ」といった「一般常識」のルールを適用することで両者を識別する。「機械学習」の部分は、最小限のリソースで極めて高い精度を出せる。ごまめは昨年、特許も取得している。
試作品として近年流行したスマートスピーカーに、ごまめを組み込んだところ、「既存製品よりも反応が早く、会話も長続きすることを実証できた」と手応えを感じている。
産学連携でAutowareの開発に参加
自動運転では名古屋大学などとの産学連携プロジェクトに参加。自動運転用のソフトウェア「Autoware(オートウェア)」の開発に関わってきた。Autowareは、オープンソースソフトウェア(OSS)として公開されており、ある一定の条件下での完全自動運転が可能な「レベル4」も実現できるソフトだ。
レベル4は、あらかじめ道路や標識など運転に必要なデータをまとめた情報地図を作成し、それに沿って運行する。自動車にカメラやレーダーといった各種センサーを取り付けることで、人や自転車の急な飛び出しをはじめとする突発的な事象にも対応できる。無人の路面電車に危険回避センサーを取り付けた姿をイメージすると分かりやすい。レベル4はすでに実用段階に入っており、東京五輪の2020年にはコミュニティバスなどに実装される見通しとなっている。
AutowareそのものはOSSとして公開されているが、開発当初から参画しているアックスには、「自動運転車にAutowareを実装するノウハウがある」(竹岡社長)。今後、全国各地で実用化されることが見込まれる自動運転車への組み込みや技術サポートで強みを発揮できるとみている。
組み込みソフトは、AIや自動運転車など新規開発が盛んな分野でこそ生きてくる。従来型携帯電話や電子手帳が最先端だった当時、組み込みソフトは大きな需要があったが、新規開発が後退していくにつれて縮小。需要は常に最先端の分野に移っており、そうした分野でリードしていくためには、「最先端のコンピューター科学を身につけた技術者が率先して組み込みソフト開発に乗り出していかなければならない」(竹岡社長)と考えている。