今の売り上げや利益の増大は、残業を含め稼働率が上がっていることが大きな要因だが、生産年齢(15歳~64歳)人口の減少に歯止めがかからないとすれば、工数を稼ぐ事業は自ずと限界に達し、将来的には売り上げや利益減は避けられない。
稼働率が高ければ、新しいことを学ぶ時間はないし、現場仕事の大半が「既存システム」の保守や機能追加であれば、新しいことができる機会は少ない。
「クラウド(IaaS)はやっている」というが、それは、「既存システム」をクラウドに移すことがほとんどで、もはや時代は、もっと上位のレイヤー、すなわちPaaSやサーバーレスといったクラウド・ネイティブへとシフトしている。
彼らに新しいことへの取り組みの機会を与えなければ、やがてそのことに気付いた優秀な連中は転職していくことになるだろう。若い人たちの定着率の悪い企業によくあるパターンだ。
顧客のITへのかかわり方が変わりはじめていることも、これまでのやり方を難しくしていくだろう。それは、「情報システム部門の意志決定力の低下」と「内製化」への動きだ。
このような変化に対応するには、三つのやり方がありそうだ。まず一つめは「短期離脱方式」だ。短期集中的に技術力の高いエンジニアを投入し、実際のシステム開発を主導しながら、顧客が内製できるようにスキルを移転する。このサイクルを高速で回す。
二つめは「専門特化方式」。AIやIoT、クラウド・ネイティブといった需要の伸びている専門領域に特化する。最後は「サブスクリプション・サービス方式」だ。ユーザーや他のITベンダーが使いやすいように技術を目利きし、使いやすいフレームワークやプラットフォーム、ツールを整備してサービスとして提供する。
このようなやり方であれば、少人数でも高収益を確保できるし、需要は確実に伸びていく。そして、新しいことや専門の領域に集中することができるので、エンジニアはやり甲斐を感じ自発的にスキルを磨いていくし、優秀な人材も集まってくる。
これらを実践するには、需要があるからと稼働率を優先するやり方では難しい。「労働力を売る」から「技術力を売る」ことへと、根本的な事業モデルの転換が必要だ。
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義
略歴

斎藤 昌義(さいとう まさのり)
1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。