複数の会社や事業を統合する際、情報システムをどうするのかは経営戦略にもかかわる切実な課題だ。PCスクール事業大手のアビバと、資格スクール事業を手掛ける老舗だった大栄教育システムの事業統合により生まれたリンクアカデミーは、セールスフォース・ドットコムのSaaSとPaaSを採用し、業務システムをまとめてアップデートすることでこの課題を解決した。
取締役
横山丈二氏
※役職は取材当時
Profile of This Case
<導入企業>
アビバと大栄教育システムの統合により、2013年12月に発足。「PCスキルの習得や資格取得といった個人のキャリアアップをワンストップでサポートする総合キャリアスクール」を全国100カ所以上で運営している
<課題>
受講生や見込み客との接点管理にかかわる業務の属人化とブラックボックス化、システムの陳腐化が進み、システム管理の負荷も増大していた
<対策>
セールスフォース・ドットコム(SFDC)のクラウドSFA/CRMソリューションやPaaS製品を組み合わせ、統合的な顧客管理が可能なシステムを構築するとともに、属人化されていた業務の標準化も進めた
<効果>
現場の業務効率が向上するとともに従業員のモチベーションも上がった
ライフタイムバリューの最大化を支えるシステムに
事業統合がシステム刷新のきっかけ
リンクアンドモチベーションの100%子会社であるリンクアカデミーは、もともと同社傘下だったアビバと大栄教育システムの統合により2013年12月に発足したが、情報システムには統合前から課題を抱えていた。リンクアカデミーの横山丈二・取締役は次のように説明する。「例えば旧アビバは、スクラッチで構築した基幹システムに契約管理のシステム、営業管理のシステム、受講生のスケジュール管理のシステムが衛星的にぶら下がっていた。それぞれが独立して運用されているイメージで、管理するのが本当に大変だった。レポートを作るにも、必要なデータを集めてまとめるために専属のチームが必要な状態で、大きな労力と時間がかかっていた」
旧大栄教育システム側に至っては、契約管理、営業管理、受講生のスケジュール管理を全て各拠点の社員がExcelで行っていたという。「両社とも、受講生や見込み客との接点管理にかかわる業務の属人化とブラックボックス化が進んでいた」(横山取締役)わけだ。
そこで両社の統合を機に、システムの刷新を決断する。ポイントは、従来の課題だったシステム管理・活用における属人化の排除と効率性の向上、そして顧客情報の統合的な管理を実現することだった。横山取締役は、これらを同時に実現できるシステムをつくることが重要な経営課題だったと説明する。
「当社が昔から重視しているのが、お客様ごとのライフタイムバリューをいかに最大化するかということ。お客様からどの媒体経由で新規のお問い合わせをいただいて、どんなタイミングでどの講座をどこの校舎で受けられたかなどの情報とライフタイムバリューの相関をかなりシビアに管理している」
「統合後は100カ所を超える拠点を管理することになったが、拠点ごとにお客様のライフタイムバリューには大きなバラつきがあった。しかし、従来のシステムは細かく情報が分断されて管理されていたため、ライフタイムバリューの“結果”を把握するので精一杯で、どのタイミングでどんなアクションを当社側の営業が取ればライフタイムバリューを伸ばせるのかというプロセスをタイムリーに把握、可視化して各校舎の現場に共有することが難しかった。この課題を解決するためには、営業管理、契約管理、受講生のスケジュール管理や受講実績の管理などをお客様起点で、ワンストップで管理できるようにしなければならないと考えた」
SFDCのSFA/CRMとHerokuを組み合わせる
システム刷新の実行にあたっては、情報システム戦略のパートナーとして位置付けていたサンブリッジとともに具体案を検討。親会社であるリンクアンドモチベーションがセールスフォース・ドットコム(SFDC)のSFA/CRM「Salesforce」(現「Sales Cloud」)の採用を決めたこともあり、SFDC製品をベースにシステムの刷新を行うことにしたという。具体的には、営業管理、契約管理をSaaSのSalesforceとPaaSの「Force.com」(現「Lightning Platform」)による機能拡張でカバーし、受講生のスケジュール・出席管理システムは、SFDCのもう一つのPaaS「Heroku」を採用した。「Salesforceライセンスが不要でありながらも親和性が高い」ことが決め手になった。
新システムの構築は属人化された業務の棚卸・標準化と並行して行ったため、「本稼働までにはプロジェクト開始から1年半かかった。従来システムからの受講生のデータ移管にも苦労したし、運用開始後の現場からの抵抗も大きかった」と横山取締役は振り返る。
そこで、サンブリッジとも協力し、プロジェクトチームによる地道な社内サポートを続けて新たなシステムを現場の業務に浸透させていった。結果として、入力業務の負荷が従来よりも大幅に軽減され、さまざまな業務プロセスがシームレスに連携することでヒューマンエラーも減り、業務効率が向上するといったメリットが現場でも実感をもって理解されるようになった。顧客のライフタイムバリューを最大化するため営業面でのナレッジの可視化、共有なども進み、従業員のモチベーションも向上したという。
また、人的リソースの観点からは、「属人的な業務を標準化して、システム管理の担当を状況に応じて配置換えできるようになったのは大きい。当初は15人ほどいた担当者が現在は2人まで減らしている。その分の人員を売上向上のための取り組みなどに配置できるようになった」と横山取締役は手応えを語る。
同社はSFDC製品をコアにしたこの新たなシステムを、ビジネス上の競争力を担保する大きな武器になると位置付けている。営業面だけでなく、マーケティングなども含めて収益拡大のための総合的なプラットフォームに拡張していく構想だ。(本多和幸)