エイチ・ピー・エスは、客先常駐でのソフト開発や受託ソフト開発で伸びてきた会社だ。「客先常駐はSEの頭数で売り上げの上限が決まったり、受注環境の悪化の影響を受けやすいなどのデメリットがある一方、さまざまな顧客のITシステムの構築経験を積んで、自社の強みを形成していくのに役立つメリットもある」と、三上智親代表取締役は指摘する。実際、同社では蓄積してきたノウハウを生かし、スタートアップ企業や学生ベンチャーのIT支援でビジネスを伸ばしている。(取材・文/安藤章司)
Company Data
会社名 エイチ・ピー・エス
所在地 東京都渋谷区
設立 2002年
資本金 1000万円
事業概要 2002年に創業。スタートアップ企業のビジネスをITの側面で支援するなど、経営面も含めた包括的な支援を強みとする。三上智親代表取締役は、業界団体のJASIPA(日本情報サービスイノベーションパートナー協会)理事、グローバルビジネス委員会委員長として国際競争の調査・研究にも取り組んでいる。
URL:https://hps.co.jp/
客先常駐の長所を生かす
三上智親
代表取締役
一人月いくらの客先常駐の仕事は、SEの頭数で売り上げの上限が決まってしまう。企業経営の立場から見ると、上限以上の伸びしろがない。受注環境が良いときは、それでも経営は成り立つが、2008年のリーマン・ショックのような景気変動が起こると、外注費削減の名の下、客先常駐の仕事がバッサリと削られる。
リーマン・ショックのときは、それまで人月80万円で仕事をしていた他社のベテランSEが、「10万円でもいいので仕事をくれ」と売り込みをかけている姿を目にした。「売り上げがゼロにになるよりは、いくらか実入りがあったほうがマシという判断だったのだろう」(三上代表取締役)と推測している。
エイチ・ピー・エスは創業時から客先常駐の仕事を手掛けてきたが、こうしたデメリットのある常駐の仕事を全面的に否定しているかと言えば、そうではない。そもそも若手SEが集まって起業したばかりのSIerが、他社にはない独自性に富んだ技術やサービスがあるケースのほうが少ないことを自ら経験しているからだ。さまざまな仕事をこなしていくうちに、得意とするような技術領域や、その時々のニーズを掴むノウハウが蓄積されていく。そして、「結果的に会社全体の強みになっていく」(三上代表取締役)と話す。
客先常駐で経験を積んでいくうちに、企業ITの分野で一通りのことは身についたし、例えば、エイチ・ピー・エスが創業して間もない2000年代に市場が急拡大したネット通販(EC)関連の実績を多数つくることができた。今では、スタートアップ企業の商品配送のシステムを立ち上げから支援したり、学生ベンチャーが必要とするAIやbotの技術相談に応じたりと、自社の強みを生かす仕事の割合が増えている。
国際競争からも逃げられない
創業したころのスタートアップ企業や学生ベンチャーのIT予算は限られているだけでなく、システム要件も固まっていないケースがほとんど。大手SIerがなかなか手が出せない領域で、なおかつ経営的な面も含めた総合的なITサポートを求められることが多い。エイチ・ピー・エスでは、こうしたニーズにきめ細かく応えていくことで、若い企業のビジネスを軌道に乗せる支援に力を入れている。
スタートアップ企業や学生ベンチャーの中には、大手プラットフォーマーの育成プログラムに応募し、ある一定期間、そのプラットフォームを無償で使える支援を得るチャンスを掴むことも珍しくない。「プラットフォームごとの特性を踏まえて、最適なシステム構築を提案するのもノウハウの一つ」(三上代表取締役)と話す。固定客を増やしていけば、景気の循環で受注環境が悪化したときでも、ダメージを最小限に抑えられるメリットも大きい。
また、近年では、外国人の客先常駐の要員も増えている。ベトナムのSIerは日本に事務所を構え、値頃感のある価格帯で受注を伸ばしていると見る。持ち帰ることが可能な案件ならば、ベトナム本国で開発すれば、さらにコストを抑えられる。一昔前、価格競争を保てた時期の中国SIerに通じるアプローチだ。客先常駐や受託ソフト開発の市場でベトナムのSIerの存在感が増していくことが予想される。
三上代表取締役は、ここ10年ほど業界団体のJASIPA(日本情報サービスイノベーションパートナー協会)の活動に参加。今はグローバルビジネス委員会の委員長として、JASIPAに加盟する中堅・中小のSIerと海外SIerとの交流や協業について調査・研究を行っている。ベトナムのSIerの国内市場への進出も、グローバルビジネス委員長としての関心事の一つだ。
日本からベトナムに委託する海外オフショア開発で、JASIPA会員とベトナムのSIerとは良好な関係を保つ一方、ベトナムのSIerが日本国内の客先常駐の領域まで進出するなど、協業と競合が混じり合う。委員会活動の一環として外国人IT技術者やビジネスマンとの定期交流会も開催している。互いの強みを生かしながら切磋琢磨していくことで、市場の活性化につなげていく考えだ。