友人が主催する新興国企業とのビジネスマッチングツアーに誘われて、ベトナムのダナンに行ってきた。さまざまな業種から、30人ほどの日本企業経営者が参加していた。その目的は、ベトナムでの自社製品の販売、日本ユーザー向けのアウトソーシング事業拠点の構築、日本で雇用する人材の調達などさまざまである。このツアーを主催した友人は、20年以上前にベトナムに拠点を構え、ベトナムと日本企業のビジネス交流を支援する事業を担ってきた。ここ数年、彼が企画するアジア、アフリカの新興国ツアーに参加するようにと何度も誘われており、今回は彼の口説きに屈して参加することとなった。
この30年ほど、主として米国で先端的なIT企業を探し提携関係を築いてきた私にとって、アジアのIT企業との付合いといえば、米国の提携先が開発拠点を置くインド、スリランカ、パキスタンなどの英語圏の企業ばかりであった。これらの地域には、米国の著名なソフトウェア製品の開発・保守の下請けやクラウドサービスの運用代行を行う企業が多い。当該ソフトウェア製品やクラウドサービスに関する技術ノウハウの蓄積が期待されるからである。
ところが最近、知己のインドのIT企業経営者から、インドの平均的なIT技術者の品質が劣化してきていることを聞かされた。マス教育の弊害が出てきているというのである。高度で高品質なIT人材の調達が地域にかかわらず難しくなってきている兆候なのだろうか。
さて、ダナンで米国と日本でIT企業を経営するベトナム人を紹介され、その経営者に某大学の前学長と一緒に食事をしないかと唐突に誘われた。興味本位でついて行くと、AI、ビッグデータ、IoT、スマートスクールなどの先進的な高度IT教育プロジェクトを産学共同で立ち上げるという議論が目の前で始まった。先進国市場への人材供給を推進するため、国を挙げてIT人材教育の高度化を図るというのだ。
彼らの議論を聞きながら、私たち日本人がすっかり忘れてしまった、経済市場が急速に発展するときの人々の熱気のようなものを感じた。わが国でも高度IT人材育成が急務であることは無論だが、日本の企業が新興国で高度IT人材の育成に積極的にかかわり、さまざまな支援を行う枠組みを整えることも急いだほうが良さそうだ。
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫
略歴

松田 利夫(まつだ としお)
1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。