視点

週刊BCN 編集長 本多 和幸

2020/07/10 09:00

週刊BCN 2020年07月06日vol.1832掲載

 とんねるずの石橋貴明さんが自身のYouTubeチャンネル「貴ちゃんねるず」を開設して、コンテンツを発信し始めた。6月19日にアップされた最初の動画は、再生数が250万に迫ろうという勢い(7月1日現在)で、チャンネル登録者数も50万人という人気ぶり。いち視聴者の勝手な妄想ではあるのだが、テレビへの思い入れが人一倍強く、Webを敵視しているタレントというイメージが強かっただけに、時代が大きく変わっていることを実感せずにはいられない。

 とんねるずが1990年代の前半にリリースしたシングル曲に「情けねえ」という曲がある。おちゃらけたテイストは皆無で、かなり肩に力が入ったメッセージソングなのだが、歌詞に「人生の傍観者たちを俺は許さないだろう」というフレーズがある。小学校の高学年だったと思うが、初めて傍観者という言葉に出会って強く印象に残ったのか、以来、傍観者という言葉を聞くと条件反射的にこの曲を思い出すようになってしまった。刷り込みというのは恐ろしいもので、傍観者であるというのはよくないことなのだというイメージも残り続けた。単細胞もいいところだ。

 ウィズコロナ期間をうまく切り抜けるためにさまざまなITソリューションを開発する動きが広がっているが、貴ちゃんねるず開設と同じ日に厚生労働省が試行版をリリースした新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA、COVID-19 Contact-Confirming Application)に対して一部で批判が起こった。アプリのベース部分は有志エンジニアのシビックテックコミュニティがオープンソースで開発したが、UIの在り方や不具合についての指摘がエスカレートして、なんとSNS上でコミュニティーのコアメンバーに誹謗中傷が浴びせられる事態になってしまった。悲劇としか言いようがない。不具合をあげつらってSNS上で承認欲求を満たすのもいいが、それは一種の「人生の傍観者」ではないか。課題を検証して改善につなげていくプロセスに参加したり、支援する方法はあるし、それぞれの立場で行動できることがある。

 新型コロナウイルス感染症は未知の脅威だ。ITもその一翼を担ってきた近年の急速な変化を、さらに加速させた。与えられた餌に文句を言っているだけでは、自分の人生や生活に密接にかかわり得ることに鈍感になってしまう。人生の傍観者にとってはとてもリスキーな時代になりつつある。
 
週刊BCN 編集長 本多 和幸
本多 和幸(ほんだ かずゆき)
 1979年6月生まれ。山形県酒田市出身。2003年、早稲田大学第一文学部文学科中国文学専修卒業。同年、水インフラの専門紙である水道産業新聞社に入社。中央官庁担当記者、産業界担当キャップなどを経て、13年、BCNに。業務アプリケーション領域を中心に担当。18年1月より現職。
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