吉田システムは、青森県八戸市の建設資材専門商社である吉田産業の子会社として同社のシステム構築を担い、民間企業の受託開発などの事業も展開している。人口の減少やITスキルの不足が課題となる中、石田広幸・常務取締役営業本部長は、受託開発を通して顧客と一緒に考え、デジタルとアナログの両方を活用しながら共に成長していくことが大切だと強調する。
(取材・文/大向琴音)
効率化で経済成長を後押し
――展開している事業の紹介を。
親会社である吉田産業の電子情報処理部門から始まり、1983年に独立した。現在は、同社のシステム構築を担ってきた知見を生かして、青森県と岩手県を中心に、民間企業から請け負ったシステム開発のほか、ネットワークやセキュリティの構築や運用、保守をワンストップで提供し、業務効率化を支援している。2005年からはデータセンター事業も展開しており、ハウジングとホスティング、オペレーション代行を手がけている。
――直近のビジネスの状況は。
顧客のオーダーメイド開発以外では、官公庁を中心に、AIを活用した議事録作成システムの導入や仮想基盤の提案を進めている。地元の青森県八戸市役所向けでは、仮想基盤の契約を獲得したところだ。そのほか、スマートフォンとAIを活用したリアルタイム翻訳サービスの開発も進めている。
――最近の景況感や今後の見通しは。
青森県は近年、人口がどんどん減っており、少子高齢化や人口流出による労働人口の減少が著しく、人手が不足してきている。経済については、過去と比べて衰退している。つまり、地域に根ざしている商売全体の売り上げが下がっているということで、特に一次産業はかなり落ち込んでいる。一方で、倒産件数は例年通りであり、(企業が)耐えている状況だ。この状況に対しては、各企業の効率化を進めるといった観点からアプローチすることで、将来的に経済成長を後押しする一端を担いたい。
――DXに関して動きはあるか。
行政の法改正などによるシステム変更の対応に関する引き合いが多い。特に23年はインボイス制度対応の案件が目立っており、200社以上のオーダーメイド開発を請け負っている。
一方で、改正電子帳簿保存法(電帳法)に対する相談はあまり受けていない。というのも、実は電帳法に対して地方はまだ焦っていない。電帳法の存在も知っているし、対応しなければいけないということもわかってはいるが、どこまで費用をかけていいかわからないなどの懸念から、周りの出方をうかがっている企業が多い。加えて、紙で請求書をやり取りしている企業はまだ存在する。紙は紙、電子は電子で保存するという今まで通りの意識のままで、実際、そこまで厳しくされないという意識が根底にあるし、指摘されたら直せばいいと考えている企業は少なくない。
石田広幸
幸常務取締役営業本部長
経営者と従業員の橋渡しを
――地方の企業における課題は何か。
ユーザー側のITスキルが低いことだ。以前、吉田産業が電子発注の仕組みをつくろうとしたことがある。しかし、新たなサービスを導入したとしても、ITスキルを持った人材がいない場合はすぐには使いこなせない。
また、経営者と従業員の間で意見が食い違うこともある。経営者がITで業務を効率化したいと考えていても、従来のやり方で慣れている現場の従業員は、今までのやり方で十分だと考えることは少なくない。
そのため、まずはすべてデジタル化するのではなく、アナログとデジタルをそれぞれどう活用して効率化していくかが求められている。一気にデジタル化を進めるとどうしても反発が起こってしまう。経営者と従業員の橋渡しをしながら、顧客と一緒に方法を模索することを心がけている。
――今後の戦略は。
自治体に関連するところでは、23年2月に八戸市が「八戸市デジタル推進計画」を策定し、行政手続きのオンライン化や行政事務の効率化、デジタル社会の実現などが盛り込まれた。具体的には、AI-OCRやRPAの活用、仮想基盤の導入などの取り組みを今から進めることになると思うが、これについては、大都市のIT企業と共に仕事をすることを考えている。
地方では、民間企業からというよりも、自治体側からの働きかけがあって変化していくことになると思う。地域に根差した仕事をする企業として必要とされるために、今まで積み重ねてきた知見を生かして各企業をサポートしていきたい。
Company Information
1983年に設立。基幹系システムやパッケージソフト、Webアプリケーションなどの受託開発を中心に、ネットワークの構築やセキュリティ対策などのITインフラの構築といった事業を手がける。青森県八戸市の本社に加え、青森市や盛岡市にも拠点を持つ。社員数は2022年4月時点で85人。