視点

生成AIは最適化社会の技術

2023/06/28 09:00

週刊BCN 2023年06月26日vol.1974掲載

 生成AIの登場は私たちの社会にどのようなインパクトを与えるのか。そんなことを考えていたとき、オムロン創業者の立石一真氏らが1970年の国際未来学会で発表した「SINIC(サイニック)理論」に出会った。

 SINICとは、“Seed-Innovation to Need-Impetus Cyclic Evolution”の頭文字をとったもので、歴史の理(ことわり)を社会、科学、そして技術の側面からメタ認知し、超長期で円環する世界を描いたものだ。エンジニアであり経営者であった立石氏ならではの視座である。

 一つは、新しい科学が新しい技術を生み、それが社会へのインパクトとなって社会の変容を促す。もう一つは、社会のニーズが新しい技術の開発を促し、それが新しい科学を推進する力となる。この二つの方向でお互いが原因となり結果となってもつれ合い、社会がサイクル的に発展していくという理論だ。

 まず私が気になったのは、今は何社会にあたるのかということだ。論文が発表された1970年は「自動化社会」から「情報化社会」に移行する時期だったように思われる。すると今は年代的には「情報化社会」を卒業して「最適化社会」に移行しているはずだ。実際にはいまだに移行期のように思える。そんな中、生成AIはまさに最適化社会へと導く技術の一つと捉えることもできる。

 さらに未来を見つめると、ウェルビーイングや瞑想、量子力学、プラネタリーヘルスや発酵などが注目され、次の「自律社会」の予兆も見える。

 「原始社会」から始まった周期が「自律社会」でいったん終わり、また次の周期へと円環していく。どのような未来が立ち現われてくるのか。そこには絶えず技術のイノベーションが必要で、科学からその種は供給される。いつの世も科学技術が社会の基盤にある。

 2023年6月29日、SINIC理論を中心に未来社会について話し合う「比叡山未来会議2023」が延暦寺会館で行われる。6人の異なる分野の研究者・実践者(物理学、経営学、経済学、チベット哲学、極限生物学、身体知)が招かれている。私も参加させていただくのだが、今から未来をのぞくのが楽しみだ。

 生成AIという技術が導く最適化社会。この中身は私たち自身が創っていく。未来は私たちの手の中にある。

 
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎
勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
 1964年2月生まれ。奄美大島出身。98年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年、ヤンマー入社、情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。総務省地域情報化アドバイザー、鹿児島県DX推進アドバイザー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。
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