政府共通のクラウドサービスの利用環境「ガバメントクラウド」による自治体システムの標準化・共通化に向けた動きが加速している。政府が掲げる移行期限の2025年度末まであと3年。全国約1700自治体のリフト&シフト実現に向け、デリバリー人材の圧倒的不足などの課題が浮き彫りになる中、プラットフォーマー各社やSIerはどう動いているのか。号砲が鳴ったガバメントクラウド。プレイヤーたちが描く青写真に迫る。第4回はグーグル・クラウド・ジャパンを取り上げる。
(藤岡 堯)
内製化支援でリソース不足に対応
同社の25年度末に向けたデリバリーの現状に関し、執行役員の森定生・パブリックセクター本部長は「▽パートナー支援▽内製化支援▽簡単に利活用できるプロダクト提供―の3点から、システム移行を行う省庁や地方自治体を支援する体制を整えている」と説明する。
森 定生 執行役員
SIerへの依存が強い傾向にある日本市場を踏まえ、パートナー企業のデリバリー能力を質、量ともに拡充・可視化する取り組みを進めている。高度なスキルを持ったパートナーを育て、そのパートナーがどのようなスキルを持っているかを顧客に示せるようにする狙いだという。
23年2月にはパートナープログラムを刷新。プログラムを製品分野別(「Google Cloud」に含まれる各製品のインフラ系、「Google Workspace」のアプリケーション系の大きく二つ)に分割したほか、パートナーのデリバリー能力を認定資格(個人単位)、エキスパティーズ(会社単位)、スペシャライゼーション(会社単位)の3段階として、パートナーの有するスキルを顧客が理解しやすいようにした。
森執行役員は「22年にもパートナーに対するインセンティブと投資を50%以上増加させているが、新施策では新たなインセンティブを導入し、スキルの向上とサービス提供に注力するパートナーをより重視した」とする。
森執行役員は、少人数で25年度末までにシステムを移行することが求められている点、外部提供したアプリやサービスに対する意見への素早い対応が求められることを踏まえ、コスト削減、開発や運用の迅速化、変革に対する省庁内理解などの観点から、内製化が一つの重要な施策となっていると強調。内製化支援に向けては、効率的なアプリ開発をサポートするプログラムを展開するほか、パートナーとともに自治体・官公庁向けのトレーニングも手掛ける。
デジタル庁はガバメントアプリ業務を管理するためのWebアプリ「GCAS(Government Cloud Assistant Service:ガバメントクラウド活用支援サービス)」をGoogle Cloudで構築しており、官公庁や自治体による内製開発は今後も浸透していくとみられる。
合わせて、内製化を始めるための第一歩となるプロダクトとして、ノーコードツールの「App
Sheet」を提供。導入自治体ではコロナ禍において、保健所業務の効率化に資するアプリを1カ月で構築した事例があり、成果が表れつつあるようだ。
地域SIerらとの連携深化
デリバリー体制のさらなる強化のため、直接契約を結ぶデジタル庁のエンジニアや、ガバメントクラウドを活用していく各省庁・自治体のシステムの設計開発を行っているパートナーへのサポートを手厚くしている。具体的には国内の大手SIerやコンサル企業に対し、Google Cloudにおけるガバメントクラウドのリファレンスアーキテクチャの作成支援に取り組んでいる。
新たなパートナー施策を通じて認定パートナーとなった企業に向け、顧客への提案やPoCを支援する特別なプログラムを用意する。パートナーの認定資格者数拡大にも注力しており、22年の資格者数は前年比2.5倍、20年との比較で6.9倍となった。
月1回、認定トレーナーが無償で営業向けにGoogle Cloudに関する座学(Google Cloud入門、プロダクト詳細、パートナー向けプログラム詳細や支援体制など)を実施するほか、技術者向けには1カ月に数回のペースでGoogle Cloudに関するテクニカルトレーニング(フォーカスプロダクト詳細、パートナー向けプログラム詳細や支援体制など)を無償で行い、最新技術などへのキャッチアップを後押ししている。
両備システムズをはじめ、各地域に強みを持つパートナーとの連携も深めており、「クラウドに強いSIerと地域のパートナーが協業体制が組めるように積極的にサポートしている」と森執行役員は語る。自治体向けのパッケージベンダーに対する技術的支援にも注力しているという。
「カルチャー」も伝え
既存パートナーやパートナー化を検討している企業への期待について、森執行役員は「サーバーレスやマネージドサービスへの理解と知識」を挙げる。政府が示すクラウドサービスの利用方針に沿うかたちで、適切にクラウド移行を進めるために必要な要素だからだ。
加えて森執行役員は公的機関のDXを支援する際には、ハード、ソフト両面での改革が必要になると強調する。クラウドやAI、データアナリティクスなどの新しいテクノロジーを導入することは当然だが、組織・人材、意思決定・思考プロセスといったソフト面での変革も欠かせない。
この二つを実現するために、グーグル・クラウド・ジャパンは、パートナーに対して、各種ツールの提供のみならず、組織を動かすための「Googleカルチャー」や考え方などを伝える活動も行っている。森執行役員は「パートナーとともにお客様に訴求していくことで、25年度末までにクラウドを活用したシステム刷新を推進していきたい」と力を込める。