速度400キロ、負荷10Gの過酷な環境で空中タイムトライアルを小型飛行機で競う、空のF1と言われるエアレース。2003年から開催していた「レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ」は19年を最後に終了したが、その「AIR RACE」が「AIR RACE X」として23年に帰ってくる。その決戦の開催地は、なんと東京・渋谷である。もちろん実際の飛行機が渋谷のスクランブル交差点の上をレース会場に、バトルするのは安全性の面から不可能である。ではどう実現するのか。
各パイロットは、それぞれの拠点で、大会本部が用意する共通のコースレイアウトをもとに飛行する。今回の大会では、渋谷の街を再現し、実際の渋谷と同じスケールに配置したトラックマーカーに合わせて実際にレースに臨む。
その飛行は専用装置「リモート・データ・ユニット」が誤差3センチ以内で飛行データを計測し、超高精細かつ高精度なフライトデータを収集・分析。競技データを生成し、大会本部に集められたあと最新のAR技術を用いたリアルメタバースプラットフォーム「STYLY」で渋谷の街にぴったりと合った位置にARとして映像化される。
決勝当日には、渋谷に設置されるパブリックビューイング会場や有料観覧席から、STYLYアプリを使用したXRデバイスやスマートフォンを通じて、渋谷の街を飛び交うレース機の様子を現実のように体験することができる。
この新しいかたちのイベントは、パイロットたちがリモート形式で競技飛行を行い、遠く離れた観客は最新のセンシング技術とAR技術で、まるでその場所を飛んでいるかのような臨場感でレースを楽しむことができる。そして、パイロットがリモートで飛行競技を行うため、地理的な制約が少なくなる。これにより、異なる地域や国のパイロットが競技に参加できるチャンスが広がり、パイロットの育成につながるほか、コストが圧倒的に抑えられるため、国際的なイベントとしての展開や地方開催などが期待される。デジタルとリアルの融合で、さまざまな可能性を実感できる好例となるはずだ。
一点だけお願いしたい。昨今のメディアはチャレンジのあらを探して潰す傾向がある。もちろん未完成なところは多いが、チャレンジを評価するためではなく、楽しむために参加してほしいと強く願っている。
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦

渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。