<企業概要>
ソースコード管理ツール「GitLab」はオープンソースのソフトウェアとして2011年に初版が公開された。その後、商用版としてビジネスを展開する法人が設立され、世界で3000万人以上の開発者が利用するプラットフォームに成長。日本法人は20年に設立。
グローバルで実績のあるソリューションベンダーの国内参入が続いている。日本法人を立ち上げ、国内でビジネスを本格化する外資系ベンダーは、どのような勝ち筋を思い描いているのか。第5回は、ソフトウェア開発者向けツールを起点に、「DevSecOps」の推進を支援する米GitLab(ギットラボ)日本法人に戦略を聞く。「Git」そのものはソースコード管理の仕組みだが、同社ではそれを活用して製品開発工程全体の最適化やセキュリティー向上を実現し、ソフトウェアによって競争力を高めようとする企業を後押しする方針を示している。
(取材・文/日高 彰)
クラウド導入の次はソフトウェア開発基盤の革新
ソフトウェアのソースコードをバージョン管理するためのツールとして著名なものに、「Git」がある。「GitLab」は、Gitの仕組みを用いてギットラボが提供しているバージョン管理サービスだが、その名称から想像されるエンジニア向けの支援ツールという枠組みを越えて、製品開発・運用のプロセス全体を効率化し、品質を高めるためのプラットフォームという性格を強めている。公開されている導入事例には世界的な製造業や金融業の大手企業名が並んでおり、規制産業を含む大規模な組織への導入に力を入れているという。
小澤正治 カントリーマネージャー
日本法人は2020年に設立され、23年から小澤正治・カントリーマネージャーが国内ビジネスの指揮をとっている。小澤カントリーマネージャーはこれまで米Adobe(アドビ)、米Salesforce(セールスフォース)、米Google(グーグル)などの日本法人で営業部門の要職を歴任してきたが、ソフトウェア開発向けの製品にフルコミットするのは今回のギットラボが初となる。
小澤カントリーマネージャーはギットラボに移籍した理由を「最近は大手自動車メーカーが自社を『ソフトウェア企業に変革する』と言っていることからもわかるように、多くの企業が内製化にかじを切っている。大企業ではクラウド導入の動きが一巡し、これからはソフトウェア開発基盤の刷新に走り始めるタイミングを迎えている」と説明。あらゆる企業が製品やサービスの差別化要素としてソフトウェアの重要性に注目し、その開発プロセスを現代的なものに変革しなければならないと気付きつつある今、ギットラボのビジネスに大きな可能性があると考えたという。
ユーザーとSIerが協業する形の「内製化」に共通基盤として貢献
小澤カントリーマネージャーは「多くの企業ではソフトウェア開発工程の中で、少なくとも4~5種類、多い場合は10種類以上のツールを使用しており、それらの連携や、各ツールのアップデートなどに多大な労力を費やしている。これに対し、当社はシングルアプリケーションですべての開発工程を網羅し、多くのツールチェーンの統合を図ろうとしている」と述べる。
ソフトウェアの企画・設計から開発、テスト、本番環境への投入まで、すべてのプロセスを単一のデータ基盤の上で行うことで、開発者の業務効率が向上するのはもちろん、関係者間の協業や問題の発見もしやすくなり、スピードと品質の向上が期待できる。開発・運用チームに加え、セキュリティー担当者も同じGitLabというツールを用いることで、開発の各プロセスで脆弱性が生まれるリスクや、セキュリティーが理由で工程の手戻りが発生するムダを低減できるとしている。
大企業ではソフトウェアの内製比率を高めようとする動きが活発化しているが、小澤カントリーマネージャーは「すべてのシステムがオンプレミスからクラウドへ移行するわけではないように、内製化も100%になることはなく、アウトソーシングとのハイブリッド型に落ち着くだろう」と展望。従来同社は、内製化を進めるユーザー企業への直接提案が中心だったが、最近ではパートナー経由の展開を強化している。特に日本ではSIerの協力を得ながらDXを進める企業が多く、「ユーザー企業とSIerが共通の基盤を使って効率よく開発していくことが今後重要になる」ため、ここにGitLabの導入を拡大できるチャンスがあるとみる。
パートナーとの協業形態としては、製品・サービスの再販だけでなく、ギットラボの技術とパートナーがもつ基盤を組み合わせたマネージド型の開発支援サービスの提供、あるいはユーザー企業向けの定着化支援サービスの提供などがある。
23年12月には、NTTデータグループと販売パートナー契約を締結。NTTデータグループは、アジャイル導入支援のサービスに、DevOpsを加速させるギットラボの技術やノウハウを組み合わせるかたちで、ユーザー企業のソフトウェア開発プロセスを改善するコンサルティングサービスを開始した。現状の開発プロセスのどこにボトルネックがあるかを可視化し、製品の価値向上につながる改善案を提案する。
また、クラウドの活用に関してはAmazon Web Services(AWS)パートナーのクラスメソッドと協業。クラスメソッドはAWS Marketplaceを通じて、GitLabをAWSのクラウドサービスと合わせて販売する。ユーザー企業のDevOpsが加速すれば、クラウドの使用量がさらに増加することが期待され、各社のビジネスに好影響を与えるという図式だ。
小澤カントリーマネージャーは「日本は米国などと異なり、ソフトウェア開発に関与するプレイヤーが多い。その中で共通基盤となれる当社が、日本企業の課題解決に貢献できる余地は大きいと考えている」と話し、開発プロセスの「全体最適化」の重要性を国内市場で訴えていく考えを示した。