視点

AI規制の動向と日本の動き

2025/05/21 09:00

週刊BCN 2025年05月19日vol.2059掲載

 生成AIをはじめとするAIの急速な発展により、各国で規制の枠組みが整えられつつある。4月14日に開催された国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の総会で、中央大学の実積寿也教授から世界のAI規制に関する動向を伺う機会があった。AIの利便性が高まる一方で、個人情報の乱用、フェイクニュースの拡散、著作権侵害などのリスクも増大している。促進と規制の間で各国が揺れ動いている現状が解説された。

 規制する立場で最も注目されているのは、EUの「AI法(AI Act)」だ。これは、AIの持つリスクレベルを四つに区分し、それぞれに応じて規制を設ける枠組みで、2024年に合意に達した。例えば、社会的信用スコアリングや潜在意識への操作は許容できないリスクとされている。一方、生成AIには「適切なデータ学習」と「出力の透明性確保」が求められ、AIが作成したコンテンツであることを明示する義務が課される。

 米国ではEUのような包括的な法律はまだないが、19年の第1次トランプ政権による大統領令13859「Maintaining American Leadership in AI」からバイデン政権、そして第2次トランプ政権に至るまでいくつかの大統領令を発令し、透明性や安全性を強化する動きを見せている。アジアでは中国が積極的な規制を進めており、23年に「生成AIサービス管理暫定弁法」を施行している。

 では、日本はどうか。総務省での議論の開始は早く、15年に「インテリジェント化が加速するICTの未来像に関する研究会」が発足し、19年の「人間中心のAI社会原則」につながっている。政府は23年に「AI戦略会議」を立ち上げ、24年には「AI事業者ガイドライン」を策定した。日本は「過度な規制を避けつつ、安全性を確保する」方針を取っており、特に企業の自主規制を重視している。例えば、生成AIの著作権問題に関しては、透明性を確保しつつ適切なデータ学習を促すガイドラインが議論されている。

 今後、AI規制はさらに進化していくだろう。開発企業にとって重要なのは、各国の規制動向を注視しながら、倫理的かつ透明性の高いAI開発を進めることだ。技術の発展と規制のバランスをどう取るかが、今後のAI活用のかぎとなる。

 
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎
勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
 1964年生まれ。奄美大島出身。中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了(経済学修士)。ヤンマーにおいて情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業業務全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。2025年より鹿児島大学大学院理工学研究科特任教授。総務省地域情報化アドバイザー、鹿児島県DX推進アドバイザー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。
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