視点

AI社会こそACCSと協働を

2025/10/08 09:00

週刊BCN 2025年10月06日vol.2077掲載

 7月にカプコンの大阪本社で中学生と高校生を対象にした「ゲームサウンド制作体験と著作権」と題したイベントを前年に続いて開催した。前回は大阪圏だけに案内し先着順だったが、今回は抽選にして参加人数も倍に増やした。参加者には、東京や千葉、鳥取、高知などから新幹線やバスに乗り1人でやってきた高校生もいた。ソフトパワーの雄であるゲームが持つ力を感じたし、彼らにとってもいい体験になったのではないかと思う。

 別の機会で私は、佐倉市中央公民館(千葉県)主催の「佐倉市民カレッジ」で講義をした。受講は40歳以上が条件で、4年間継続して学ぶコースのためほとんどが高齢者だ。

 正直に言えば、著作権法に関して何も知らない方ばかりだ。それでも情報コースを専攻し4年間勉強したいと思う人たちだから知的好奇心は強い。著作権法第2条で著作物の定義が「思想又は感情を創作的に表現したものであって」と書かれていることを知ると、格調高いと驚かれる。さらに、その目的が「文化に貢献する」は腑に落ちるようだ。

 社会に対する共通認識があるからか、話が通じやすいのも高齢者ならではだ。例えば、孫が描いた絵にも著作権があり、勝手にSNSにアップロードするのは公衆送信権侵害にあたると言えば即座に理解してくれる。原則、孫の許諾が必要だが、私はスマートフォンの待ち受け画面を見せながら親権を持つ親の許諾を得ていると伝える。

 「情報」の多くを占める著作物について語ると、彼らの理解が進み知的好奇心が刺激されるのか、とても喜んでくれる。創作への理解も深まり、感覚的に分かってくれる。講義後、70歳代の女性から直接電話をいただき、「著作権についてモヤモヤしていたが腑に落ちた」とのことだ。

 世界で支持されるマンガやアニメを例に出すまでもなく、思想又は感情を創作的に表現するために、ITやAIといった最新技術を組み合わせれば、コンテンツ立国・文化大国は夢ではない。私を含め彼ら、彼女らは孫世代の日本社会をとても憂慮、心配しているからか、共感してくれる。今までは専門課程の情報コースだけだったが、来年からは全受講生を対象にしたいそうだ。

 情報社会の真っただ中、中・高生向けでも、高齢者向けでも、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)がやるべきことはまだまだあると意を強くした。

 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。公益社団法人著作権情報センター理事、公益社団法人日本文藝家協会知的財産権委員会委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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