視点
人間はAIのUIになるのか
2025/10/15 09:00
週刊BCN 2025年10月13日vol.2078掲載
例えば、倉庫の中での代表的な業務である、発注された商品を棚から取り出してそろえる「ピッキング」。作業者は朝から晩まで倉庫の中を歩き回るため、1日あたりの歩行距離が10キロメートル以上におよぶ現場も少なくなかった。商品の種類や数量を間違えると顧客からのクレームにつながるので、精神的にも高い集中力が要求される。
それが最近では、必要な商品を集める最短ルートを指示してくれたり、商品の入ったコンテナをロボットが運んできてくれたりする。場合によっては座ったままの作業も可能になった。手に取るべき商品を光で照らして示すなど、間違いを防ぐための工夫も重ねられている。人間は画面や音声の指示に従って作業をすればいい。
しかし、これらの改善の裏に、新たなストレスが生まれることもある。効率化が極限まで進むと、画面に表示される「次に何をしなさい」という指示に追い立てられているような感覚を覚える。最初は人間が機械に対して「作業を手伝え」と命令していたはずが、いつの間にか立場が逆転して、機械から指図を受ける側になっている。
このような現象は、AIエージェントとの協働が広がると、あらゆる業務で発生する可能性がある。通勤中にスマートフォンを開くと、「午前の訪問先はA社です。9時35分までに会社を出て、○○駅で乗り換えると間に合います。昨日A社は新製品を発表したので、話題に出すと良いでしょう。B部長とのアイスブレイクには……」などと表示され、その通り行動することで最大の成果が得られる確率が高まる。
商談中に問われた内容に即答できないとみると、画面の隅から「その機能には一部制限がありますが、お客様の環境ではこのように回避できます」と助け船を出してくれる。値引きを渋った場合の失注リスクを過去実績から即座にはじき出したり、次回のアポイントメントを自動で調整してくれたり。こうした光景の一部は既に現実になりつつある。
ただ、こうなると、ビジネスを駆動する主体はAIで、人間はそのユーザーインターフェース(UI)として振る舞うだけになっていくような不気味さがある。私たちに残される仕事は何なのか。そろそろ真剣に考える時期に来ている。
- 1