昨年12月25日、森岡毅氏率いる刀が運営する「イマーシブ・フォート東京」が、今年2月末で営業終了すると発表した。開業からわずか2年、USJ再生の立役者が手掛けた次世代エンターテインメント施設の早期撤退は、単なる経営判断の失敗ではない。XR業界が迎える「二つのブーム」の交差点を象徴する出来事だ。
閉業の理由は明確だ。当初想定していた大人数向けの「ライト体験」ではなく、人数限定の「ディープ体験」に需要が集中した結果、3万平方メートルという巨大な施設規模が過大となった。森岡氏は「苦渋の決断」と語るが、これは市場の読み違えではなく、むしろ体験価値そのものの質的変化を捉えた結果と言えるだろう。
VR体験施設そのものは今、第2のブームを迎えている。東京ドームシティの「THE MOON CRUISE」は連日長蛇の列。12月19日にはキャナルシティ博多に「VR BASE TOKYO」と「XR Center Game Space」が同時オープンし、日本XRセンターは2027年までに全国10店舗展開を計画する。施設型VRは「特別な場所での特別な体験」として、確実に復活を遂げている。
しかし、イマーシブ・フォートの閉業が示唆するのは、もう一つのブームの到来だ。それが「身につけるXR」への転換である。IDCのデータによれば、個人向けVR/MRヘッドセットの出荷台数は25年に約4割減少する見込みだ。一方で、日常的に着用できるスマートグラス型デバイスが急速に台頭している。中国XREAL(エックスリアル)は業界初の「X1」チップ搭載ARグラスで日本市場での売上高4割増を見込む。
この構図は示唆に富む。非日常のVR体験は、エンターテインメントとして確実に成長している。しかし、家庭で楽しむ重量級ヘッドセットは衰退し、代わりに日常の延長線上で使えるXRが次のフェーズを切り開こうとしている。イマーシブ・フォートが直面したのは、その中間に位置する「大規模施設での非日常的体験」というポジショニングの難しさだったのかもしれない。
週末は施設で没入体験を楽しみ、平日はスマートグラスで仕事や学習を拡張する。26年のXR業界は、「特別な体験」と「日常的な拡張」という二つの価値軸を同時に進化させる、新たなステージに入ろうとしている。
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦

渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。