親戚の子どもの中学生を連れて道を歩いていたら、電話ボックスの前を通りかかったときにこんなことを言われた。「公衆電話って不思議だね。なんでこれで電話ができるんだろう」。一瞬、何を言われているのか分からなかった。彼女の手にはスマートフォンが握られている。高速通信がワイヤレスでできることのほうがはるかに高度な技術のはずなのに、通話機能しかなく有線でつながった公衆電話に、理解を超越する何かを感じているというのだ。
聞けば、彼女にとっての電話とは、端末、電話番号、そしてアプリのアカウントなどが当然に個人にひも付くものであり、どのユーザーのものでもない電話機が公共空間に設置されていることが不思議だったのだという。技術の新旧ではなく、「誰のものか分からない」という所有のあり方に違和感を覚えたということか。
これとよく似た問いを、IT業界の新社会人から投げかけられたことがある。「企業がサーバーを導入するのって、どうしてですか」と。私たちにとっては、サーバーはITインフラを構成する最も基本的な製品であり、身近にあって当たり前の存在だが、デジタルネイティブの彼からすれば、計算資源はクラウドサービスとしてインターネットの向こう側から提供されるのが当然で、個社が所有することに合理性は感じられないというのだ。
コストや性能要件、ガバナンスなど、オンプレミスを選択するさまざまな理由があることを説明した。しかし、彼にはそのように伝えながらも、更改を続けつつ現在もオンプレミスで運用されているシステムの中には、過去の意思決定の延長線上でそれが選ばれている例が少なくないことが頭をもたげた。将来的な維持・管理の負荷、新しい技術との親和性などからクラウド移行を検討しつつも、「今回はオンプレでいこう。クラウドは次回リプレース時の検討事項に」という消極的な決断が行われるケースをしばしば耳にする。
企業の中で受け継がれている仕事のプロセスや、それを実装した業務システムには、今となってみれば、なぜそれが存在するのか熟視してもわかりにくい部分が残っていることがままある。新入社員を迎え入れるこの季節、なぜこの仕事やシステムが存在するのか、若手に対して説明に苦労する場面があれば、自分たちのビジネスの「前提」を問い直す、絶好の機会なのかもしれない。
週刊BCN 編集長 日高 彰

日高 彰(ひだか あきら)
1979年生まれ。愛知県名古屋市出身。PC情報誌のWebサイトで編集者を務めた後、独立しフリーランス記者となり、IT、エレクトロニクス、通信などの領域で取材・執筆活動を行う。2015年にBCNへ入社し、「週刊BCN」記者、リテールメディア(現「BCN+R」)記者を務める。本紙副編集長を経て、25年1月から現職。