久しぶりに実家に帰省し、押し入れを片付けていると、幼少期に熱中した任天堂の「ファミリーコンピュータ」が出てきた。白と赤の2色で彩られた小さなゲーム機とそのコントローラーを目にすると今でも心が踊るが、本体を裏返すと、底面にあった仕様表記に目を見張った。「消費電力 4W」と書かれていたのだ。
1983年に発売された“ファミコン”は、1万4800円という低価格ながら、キャラクターの動きや画面スクロールなどの滑らかさは競合製品を上回っていた。当時世界で最も成功したゲーミングコンソールが、わずか4ワットで動作していたという事実に驚かされた。
「PlayStation 5」の製品仕様を見ると、最大消費電力は350ワットと記載されている。最新のゲーム機が必要とする電力は、ファミコンに比べて80倍以上に増大した。コンピューティングデバイスが求めるエネルギーは、もはや「家電」の域を超えつつある。
データセンター向けの機器メーカーでは、ここ数年で急速に増大したAI需要に応えるため、大電力や水冷への対応が大きなテーマになっている。一方で、一般のオフィスや店舗などで使われるIT機器の電力の総量も大きくなっていることには、あまり気付かれていない。PCやタブレット端末は多くの人が日常的に触れる代表的なIT機器だが、それらを駆動するためには、家庭用ゲーム機と同じく、昔の何倍もの電力が要求されるようになっている。
最近、鉄道や航空機の中でのバッテリーの発火や、充電器を原因とする住宅の火災などが頻繁に伝えられている。従来、IT機器自体がユーザーの生命や財産を直接的に脅かすことはなかったが、これだけ大きな電力が手元のデバイスで消費されるようになると、機器のわずかな不具合や劣化、使用環境などが重大な事故につながる可能性も否定できなくなってくる。
Eコマースが普及し、価格とカタログスペックから最適なIT機器を選択することは容易になった。しかし、信頼できるメーカーや機種の選定、設置環境や電源、運用方法まで含めて提供できる価値は、簡単にネット通販に代替されるものではない。性能だけでなく、安全性まで含めて提案できることが、これからの販売店の競争力になるのではないだろうか。
週刊BCN 編集長 日高 彰

日高 彰(ひだか あきら)
1979年生まれ。愛知県名古屋市出身。PC情報誌のWebサイトで編集者を務めた後、独立しフリーランス記者となり、IT、エレクトロニクス、通信などの領域で取材・執筆活動を行う。2015年にBCNへ入社し、「週刊BCN」記者、リテールメディア(現「BCN+R」)記者を務める。本紙副編集長を経て、25年1月から現職。