Special Feature
注目新興AIベンダー(画像認識 編) 開発が進み精度は向上 活用の幅は多様化
2022/04/07 09:00
週刊BCN 2022年04月04日vol.1917掲載

幅広い分野で積極的に導入され始めているAI。社会や生活に欠かせない存在になりつつある中、AIを活用したサービスとして注目が集まっている領域の一つが「画像認識」だ。さまざまなベンダーが技術開発を進め、精度が向上しているほか、すでに製品やサービスを組み合わせてソリューションとして提供しているケースもある。画像認識に関する市場の状況、先進的な取り組みを進める新興AIベンダーの現状を探る。
(取材・文/安藤章司、岩田晃久、佐相彰彦、山越 晃)
市場動向
25年度まで成長見込み 大企業から準大手でも導入検討が進む
調査会社のアイ・ティ・アール(ITR)によれば、国内画像認識AI市場は2020年度の時点で52億円、20~25年度のCAGR(年平均成長率)は22%と見込まれている。ITRが調査対象としている「画像認識」は、撮影した画像を読み取り、情報を把握するためのエンジン(アルゴリズム)を指す。舘野真人・シニア・アナリストは、「画像認識に対する投資意欲は、5000人以上の大企業が以前から高かったが、1000~4999人の準大手企業でも新規導入を検討する企業が伸びている」と説明する。
用途については、工場で行われる製品の外観検査、道路や橋の社会インフラ、建造物の保全業務での活用などが主流だが、舘野シニア・アナリストは「最近では、動線・動態分析や車両の自動運転関連などと多様化も進んでいる」と話す。
AIベンダーがソリューションを提供する上で強みになるのは、「生産現場やフィールドワークでの点検(モノの識別)、店舗や商業施設の来場者分析(人の識別)、監視カメラのインテリジェント化(防犯・監視)の三つに大別される」と舘野シニア・アナリストはいう。加えて、小売店舗への提供が活発化しつつあり「『来場者カウント』『滞在時間分析』『動線分析』が中心であるほか、無人レジや視線分析など、ユニークな特化型ソリューションも登場している」(舘野シニア・アナリスト)という。
舘野シニア・アナリストは「画像認識のみで得られる差別化効果は限定的であるため、画像認識と他データとの組み合わせで新たな顧客価値を創出していくこと」が、今後、ソリューションに求められるようになるとみる。例えば「AIカメラ+キオスク端末によるオーダーの迅速化」「AIカメラ+POSデータによる購買動向分析」「AIカメラ+サイネージによる広告効果測定」「AIカメラ+健康情報による顧客・社員の健康管理」など、「AIカメラ+α」がかぎになるという。さらに、「300人未満の企業など、中堅・中小企業に浸透するためには、パッケージ化による容易な導入や低コスト化が求められる」としている。
アルベルト
データのシェアリング促進 資本業務提携を通じて社会実装実現へ
データソリューション事業を手掛けるアルベルトは、18年から産業間でAIとデータのシェアリングを促進する「CATALYST戦略」を掲げ、各産業の主要企業と資本業務提携を結ぶなど、社会実装の実現に向けて長期的な関係構築を進めている。中でも、社会的影響が大きいと捉える重点産業を自動車、金融、製造、通信、流通・インフラに定めてビジネス強化を推進。20年には自社技術開発を専門とした先進技術部を立ち上げた。
先進技術部では、最近注目を集める「3次元認識と物体再構成」「動画像認識とシーン理解」などの技術研究を進めており、ロボティクスへの応用や、シミュレーションとリアルをつなぐ「Sim2Real」技術の実用化が期待されているという。
ロボティクスへの応用については、工場でのロボットアームによるピッキング(把持動作)などで3次元認識技術の活用が期待される。点群からの表面再構成、把持部分と把持角度を事前学習させることがポイントという。またSim2Realでは、自動運転分野で実際に実験できないような事故状況の再現をシミュレーション上で行うことで検証が可能となるとしている。
また、動画分析のニーズも高まっており、その観点からの研究も進めている。松林達史・先進技術部部長は各研究に対して、「目標をたてながらどう取り組んでいくかを伝えていく人材育成面も大切になってくる」としている。
一方、画像認識を取り巻く環境はプライバシーや権利面での障壁があり、顔認証や人物追跡技術などでは、学習データの利用段階で問題になる可能性も指摘されている。同社は複数カメラによる物体追跡に関わるマッチングアルゴリズムの研究などを進めているが、松林部長は、「研究するために必要なデータを取得する段階でも、事前許可を取得するまでに多くの時間と労力がかかる」と明かす。人流を計測する場合は日時や場所、データの使用目的を明確に自治体や警察などに報告する必要も出てくるという。
松林部長は社会実装していく上で、「技術、法、インフラ、プライバシーまで包括的な視点で見ていくことが重要になってくる」と捉えている。
プライバシー保護に配慮した業界の動向として、最近は人物の画像ではなく、人の骨格だけを追跡する研究にも焦点が当てられている。このような状況を踏まえて、先進技術部では技術開発に取り組んでいく。
セキュア
万引き常習者を認識 スマートオフィス需要も増大へ
セキュアは、画像認識AIエンジンを駆使した防犯カメラや顔認証による入退室管理で昨年度(21年12月期)の売上高、営業利益で過去最高を更新した。昨年12月には東証マザーズ市場に株式上場を果たしている。中でも、小売店舗での防犯カメラ需要は勢いよく伸びており、常習的に万引きをする客の顔を認識し、店員に注意を促すといった用途が広がっている。20年7月にレジ袋が有料化されて以降、小売業の万引き対策が一段と強化されており、この一環であらかじめ登録した人物の顔を認識できる防犯カメラシステムの販売が伸びた。
オフィスの入退室管理に関しては、コロナ禍期間中にリモートワークの割合を増やした企業が多いことから、一時的に伸びが鈍化した。だが、今後はオフィス出勤とリモートワークのハイブリッド型の働き方が定着。「中小規模のオフィスビルにおいても新しい働き方に対応した改装が進む」と谷口辰成社長はみている。改装に際して顔認証の入退室と管理はもとより、シェアオフィスなどで誰がいつオフィスにきて、いまどこにいるのかといった時間や滞在場所を可視化する“スマートオフィス”需要が高まる見通しだ。
画像認識AIを活用した防犯カメラや入退室管理は、世界中のベンダーが開発にしのぎを削っている。激しい競争下でセキュアが業績を伸ばしている背景には「ソフト、ハード、ネットワークを統合できる技術力にある」と谷口社長は話す。中核となる画像認識AIを自社で開発し、ハードやネットワークは汎用品を活用。最もコストパフォーマンスが良くなるよう組み合わせ、統合して顧客企業の満足度を高める手法だ。小売店やオフィスに設置する際も、光の当たり具合、日光の差し込み具合、四季による変化を計算し、画像認識AIの性能を最大限に引き出せるようにしている。
昨年度の連結業績は、売上高が前年度比21%増の33億円、営業利益が同337%増の1億5500万円と過去最高を更新。小売店舗や一般オフィス向けなど累計6500社余りの導入実績となった。足元では小売店の防犯用途、オフィスの入退室管理がメインだが、今後はスマートオフィスや、小売店での顧客の振る舞いや表情から購入意欲を探るほか、顔認証による自動決済サービスといった用途に広げることで業績を伸ばしていく方針だ。
AIメディカルサービス
胃領域の内視鏡AIを申請 承認されれば世界初の事例に
医療の現場でも、AI画像認識活用の動きが進んでいる。内視鏡の画像診断支援AI開発を行うAIメディカルサービス(AIM)は現在、自社製品を厚生労働省に医療機器製造販売承認申請しており、2~3カ月後に承認される見込みだ。承認されれば、AIを活用した胃領域の内視鏡診断支援システムとして世界初の事例になるという。同社の多田智裕・代表取締役CEOは、医師として独自の施術方法を開発するなど、内視鏡検査でトップクラスの実績を持つ。AIMを設立した背景には病変見落としが医師のよっては2割以上あるといった課題を解決したいとの思いからだったという。
最近は、内視鏡AIに参入する企業も増えている。ただ、その多くは大腸を対象としており、胃の領域で研究開発しているのはAIMのみだという。「大腸ポリープは見た目が分かりやすいことから、AIの開発も比較的容易だ。一方、胃はがんであっても見た目では判別できないケースが多々ある。難しい分野のAI開発に挑戦することは臨床意義が高い」と金井宏樹・経営企画責任者は説明する。
AI開発では教師データの質と量が何よりも重要だ。AIMでは、東京大学をはじめとした大学や、がん研有明病院など国内有数の医療機関、内視鏡専門医と協力関係を築き、良質で膨大な数の内視鏡データを得てAI開発を進めている。こういった施設と強固な関係を築けるのには、多田CEOが医師として豊富な実績とネットワークを持っているからこそだという。
また、内視鏡データは個人情報のため、データを提供してもらう際には各施設と複雑な契約が発生し、録画データを匿名加工処理する必要もある。そのため、こういったプロセスに対応するノウハウが乏しい他のAIベンダーでは、AIMのようにデータを取得するのは困難だとしている。
こうした強みを生かし同社では研究開発を進め、内視鏡AIに関する複数の特許技術を取得。内視鏡医20人以上と行ったピロリ菌胃炎判定のテストでは、医師の平均を上回る正解率を達成した。
第1弾の製品として発売予定なのが、検査時に内視鏡医が発見した胃がんの疑いがある箇所について、リアルタイムでがんである可能性が何パーセントかを判定するソフトウェアだ。導入時でも複雑なSI作業は不要で、内視鏡とAIを搭載した機器をケーブルでつなぐだけで利用できるという。提供形態はサブスクリプション型を予定している。当面は、協力関係にある大学や病院に導入するが、「将来的にはパートナー経由での販売も視野に入れている」(金井経営企画責任者)。加えて、胃の全体からがんの疑いがある場所を見つけ出すAIも開発しており、製品化を目指している。
1月には米国法人を設立、海外展開にも注力している。金井経営企画責任者は、「内視鏡は国内メーカーが世界シェアの大半を占めており、日本が先行している分野だ。海外では、内視鏡医が少なくノウハウも不足していることから当社への関心は高い」と語った。

幅広い分野で積極的に導入され始めているAI。社会や生活に欠かせない存在になりつつある中、AIを活用したサービスとして注目が集まっている領域の一つが「画像認識」だ。さまざまなベンダーが技術開発を進め、精度が向上しているほか、すでに製品やサービスを組み合わせてソリューションとして提供しているケースもある。画像認識に関する市場の状況、先進的な取り組みを進める新興AIベンダーの現状を探る。
(取材・文/安藤章司、岩田晃久、佐相彰彦、山越 晃)
市場動向
25年度まで成長見込み 大企業から準大手でも導入検討が進む
調査会社のアイ・ティ・アール(ITR)によれば、国内画像認識AI市場は2020年度の時点で52億円、20~25年度のCAGR(年平均成長率)は22%と見込まれている。ITRが調査対象としている「画像認識」は、撮影した画像を読み取り、情報を把握するためのエンジン(アルゴリズム)を指す。舘野真人・シニア・アナリストは、「画像認識に対する投資意欲は、5000人以上の大企業が以前から高かったが、1000~4999人の準大手企業でも新規導入を検討する企業が伸びている」と説明する。
用途については、工場で行われる製品の外観検査、道路や橋の社会インフラ、建造物の保全業務での活用などが主流だが、舘野シニア・アナリストは「最近では、動線・動態分析や車両の自動運転関連などと多様化も進んでいる」と話す。
AIベンダーがソリューションを提供する上で強みになるのは、「生産現場やフィールドワークでの点検(モノの識別)、店舗や商業施設の来場者分析(人の識別)、監視カメラのインテリジェント化(防犯・監視)の三つに大別される」と舘野シニア・アナリストはいう。加えて、小売店舗への提供が活発化しつつあり「『来場者カウント』『滞在時間分析』『動線分析』が中心であるほか、無人レジや視線分析など、ユニークな特化型ソリューションも登場している」(舘野シニア・アナリスト)という。
舘野シニア・アナリストは「画像認識のみで得られる差別化効果は限定的であるため、画像認識と他データとの組み合わせで新たな顧客価値を創出していくこと」が、今後、ソリューションに求められるようになるとみる。例えば「AIカメラ+キオスク端末によるオーダーの迅速化」「AIカメラ+POSデータによる購買動向分析」「AIカメラ+サイネージによる広告効果測定」「AIカメラ+健康情報による顧客・社員の健康管理」など、「AIカメラ+α」がかぎになるという。さらに、「300人未満の企業など、中堅・中小企業に浸透するためには、パッケージ化による容易な導入や低コスト化が求められる」としている。
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- アルベルト データのシェアリング促進 資本業務提携を通じて社会実装実現へ
- セキュア 万引き常習者を認識 スマートオフィス需要も増大へ
- AIメディカルサービス 胃領域の内視鏡AIを申請 承認されれば世界初の事例に
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