旅の蜃気楼

<e-Silkroad編 アジアのIT利用技術立国を目指せ>その12 時空を超えた交流

2002/03/25 15:38

 

▼本号は趣が違う。「人生は自分探し」といった人がいる。こんな気の利いたことはいえないが、半年ぶりに、ニューヨークに舞い戻った。どうしてもあの時の「落し物を探したかった」からだ。この連載をスタートするきっかけにもなったワールドトレードセンター(WTC)の姿を見たかった。昨年9月11日、真っ青に澄んだ天を背景にして、煙を噴き出しながら崩落したツインタワーを、West Broadway, Leonard St.の交差点で見た。あれは、夢ではなかったのか。「グランド・ゼロ」は工事が進み、大きな普通の建設現場だ。しかし周辺のビル壁面には、強力な破壊の爪あとが残っている。すさまじい。

▼WTCに飛行機を激突させるには、人の心の中に圧縮されたエネルギーがあったはずだ。それはどこからきたのか。広島を焦土と化したエネルギーは、太平洋戦争を終結させるための力だ。そのすさまじさは原爆記念館にある。一周して館を出る頃になると、涙が頬をつたう。グランド・ゼロに隣接した教会には昔のお墓がある。人を葬むるべきところで、生身の人が葬むられたことに人の儚さが増幅する。教会の垣根には思い出のTシャツ、顔写真、手紙が張ってある。新しい嘆きの壁だ(=写真○下)。半年を経過するから、色があせ始めている。

▼WTCに衝突したエネルギーは、アフガニスタンへ戦争として伝播した。攻撃は終わった。しかし、諍いは深まるばかりだ。諍いには、見える諍いと、見えない諍いがある。聞こえる諍いと、聞こえない諍いがある。見えない諍いと聞こえない諍いは不気味だ。その力の蓄積、圧縮が、今回の事態を生んだ。エネルギーは普遍的に均一な質量をもっているのだろうか。エネルギーはバタフライ現象として地球を駆け巡り、終わりがない。人種、宗教、言語の違いから地域ごとに集団ができた。離合集散の変遷を経て国ができた。今も身近な問題だ。

▼なぜか、人は何年かおきに大きな破壊的な諍いを起こす。そのたびに、理由付けこそすれ、多くの人が死ぬ。なんと儚いことか。それを防ぐために人は交流をする。文明と文化の交流をして、価値と理解を共有しようと努力する。ここでインターネットに行き着く。人類にとっての本質的な役割は何か。BtoB、BtoC、e-Japan、e-Government、e-Silkroad。それらはすべて人の交流だ(=写真○上)。それも国どころか時空を超えた交流だ。今、ネット代1ドルで、この写真と原稿をNYから日本に送る。(旅の蜃気楼 NY発・BCN主幹奥田喜久男)
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