旅の蜃気楼

デファクトスタンダードを再考

2009/02/02 15:38

週刊BCN 2009年02月02日vol.1270掲載

【本郷発】トム佐藤さんから出来たてほやほやの著書が届いた。タイトルは『マイクロソフト戦記―世界標準の作られ方』(新潮新書)だ。本の内容はタイトルどおりに、彼がマイクロソフトで働いていた時期の戦記である。MSX、Windowsの標準化に奔走した頃だ。彼と知り合ったのは、ちょうどその頃の1980年代後半だ。色白で甘いマスクはもてるだろうなとも思ったが、むしろ学者の匂いがぷんぷんした。13歳で渡英、ロンドン大学で天文物理学を専攻している。彼は2005年、あることで有名になった。その年の5月、スティーブ・ジョブズはスタンフォード大学の卒業式の祝賀スピーチをした。友人から送られてきたジョブズの講演を聞いて、感動した彼はそれを翻訳したものを自分のメルマガ読者に配信した。メルマガの読者数は2万人。配信と同時に感動の連鎖が起きて、スピーチの翻訳は瞬く間に日本中のネット内を駆け巡った。今では「stay hungry, stay foolish」の言葉は、デファクトスタンダード(事実上の世界標準)化している。

▼デファクトスタンダードについて彼は次のように説明している。母校のロンドン大学を設立した哲学者ベンサムの唱えた「最大多数の最大幸福」をかなえるものが、その位置につく、と。彼はMSXとWindowsの標準化に携わっていた。MSXはなぜ事実上の標準にならなかったのか。それはハードの規格であったからだ。その動向を見て、Windowsというソフトでデファクトスタンダードを完成させた。

▼デファクトスタンダードとは、文化に根付いたものをいう。作法、思想、宗教を伝えるツールがその対象だ。マイクロソフトのビル・ゲイツはこの本質を見抜いていたようだ。アップルのiPodのすごさはハードのデザイン性、ファッション性にあるが、本質的な強さはiTunesソフトの仕組みとその中にある山のようなコンテンツと、iPodの世界的な普及にある。ハードの普及ではソニーのウォークマンが一足先に世界を席巻していたが、ハードが次のファッション性に移行したとたんにその座から滑り落ちた。もし、iTunesの仕組みとコンテンツをソニーが作っていたら、流れは違っていただろう。(BCN社長・奥田喜久男)
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