BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『大局観――自分と闘って負けない心』

2011/03/03 15:27

週刊BCN 2011年02月28日vol.1372掲載

 自分が嗜まないからこそいえるのだが、囲碁や将棋を趣味とする人には地頭(ぢあたま)がいい人が多いような気がする。知識の多寡ではなく、考える能力をもっているのだ。囲碁・将棋は、相手の手を読んで、応手を考え、局地戦を戦いながら全体を見渡して勝ちを目指す。集中力を発揮して、鋭敏な感覚を鍛え上げる。定石という地味なお勉強だってある。地頭を鍛えるのにはもってこいのゲームだろう。

 これらすべてを極限まで高めた一人が、著者の羽生善治。現在、将棋界の7冠のうち6冠で永世称号をもつ最強の棋士だ。本書は、その羽生が将棋人生で獲得してきた「大局観」という能力を、わかりやすく伝えている。

 羽生は将棋を「読み」と「大局観」のゲームとして、前者を「ロジカルに考えて判断を積み上げ、戦略を見つける作業」、後者を「具体的な手順を考えるのではなく、大局に立って考えること」とする。この大局観は多くの経験から培われるもので、身につけると「無駄な『読み』を省略して正確性が高まり、思考が速くなる」という。若手棋士が読みの力に長けるのに対して、熟年棋士は逆に「読まない心境」になり、それで互角に戦えるというのだ。

 羽生は大局観を身につけてきた過程を、「練習と集中力」「負けること」「運・不運」「理論・セオリー・感情」というキーワードから語る。話は将棋から始まるが、言葉にまとめ上げていく間に普遍化され、「セオリー」になっていく。将棋ファンはもとより、羽生善治を知らない将棋オンチでも、存分に楽しめる。(叢虎)


『大局観――自分と闘って負けない心』
羽生善治 著 角川書店刊(724円+税)
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