BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『最強国の条件』

2011/06/02 15:27

週刊BCN 2011年05月30日vol.1384掲載

 著者のエイミー・チュアは、中国系アメリカ人。イェール大学ロースクール教授として、民族紛争やグローバリゼーションの視点から広く社会科学を論じているが、今年に入ってからは、英才教育で2人の娘を育てた体験記『タイガー・マザー』が議論を呼んでいるワーキングマザーでもある。

 タイトルの「最強国」とは、国力全般で同時代のライバルたちを上回り、軍事力・経済力にすぐれ、力を及ぼしうる範囲が全地球的規模である国家。この条件に当てはまる国として、ペルシャやマケドニア、ローマ帝国から始まる検証は、それぞれの時代の最強国を巡ったのち、近代のイギリス、ドイツ、日本、アメリカ、そしてアメリカのライバルたち──中国、EU、インドなどへと収斂していく。

 これら最強国の興亡のキーワードは「寛容」だ。単なる情け深さを示す「寛容」ではない。国家の勢力を広げていくためには人的資本が必要であり、また、さまざまな地域の人々を統制するためには、異なる人種・宗教・文化などを一定の統制の下に受け入れる必要がある。残虐の限りを尽くしたかのように喧伝される国であっても、少なくともその時代には、世界で最も寛容な国だったということだ。

 本書の米国での刊行は2007年。リーマン・ショックもなく、オバマ大統領はおらず、ビンラディンはまだ生きている。しかし、この激動の世界情勢のなかにあっても、本書はまったく色褪せない。塩野七生『ローマ人の物語』が、きれいに現代につながります。(叢虎)


『最強国の条件』
エイミー・チュア著 徳川家広訳 講談社刊(2000円+税)
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