BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『日本の転機――米中の狭間でどう生き残るか』

2013/01/24 15:27

週刊BCN 2013年01月21日vol.1465掲載

 この一年、日本の外交は大きく揺れ動いてきた。本書が3年前に書かれたのであれば、本音がむき出しになったいささか過激な安全保障論として、賛同は得られなかっただろう。しかしそれは、世界のなかで安全保障の矢面に立つことが少なかった日本の状況を表していたといえる。

 著者は日本の経済、社会構造、資本主義の比較研究を専門とするイギリスの社会学者。日本に関する著書は多い。その著者が安全保障を語るときの軸になるのが、国連中心主義だ。しかし、オン・ザ・レールの国連中心主義ではない。例えば、戦争のない世界をつくるために、現在の核拡散防止条約(NPT)を廃止して新しい体制を考えなければならないと説く。語られるのは、米中のせめぎ合いだけではなく、世界の秩序なのだ。そして30年先の西太平洋の理想像を、(1)国連加盟国同士の相互規制によって「侵略」という現象をこの世から退治する諸メカニズムが生み出されること(2)日中米の3か国の間に軍事同盟なしで、おのおの独立国家として、貿易関係、外交関係、文化交流関係をつくって、平穏な雰囲気で共存できること──として、いくつかのシナリオを描いてみせる。

 著者は本書執筆の目的を、「世界をまっすぐ見ることができなくなった日本人をたしなめることを企図している」と書く。建前ではなく、透徹なリアリズムが生む安全保障論は、企図を達成しているといえるだろう。シナリオで描かれる未来はともかく、ここに至るまでの日本と世界の安全保障を学ぶには最適のテキストだ。(叢虎)


『日本の転機――米中の狭間でどう生き残るか』
ロナルド・ドーア 著
筑摩書房 刊(800円+税)
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