BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『科学技術大国 中国』

2013/09/05 15:27

週刊BCN 2013年09月02日vol.1495掲載

 中国の科学技術力に関しては、中国国内での情報集約の遅れなども手伝って、これまで必ずしも明らかになってはいない。その実体を数字でみると、文部科学省科学技術政策研究所の『科学技術指標 2013』によれば、科学技術研究の指標の一つである論文数は、生産への貢献度を示す分数カウント法で世界第2位(2010~12年平均)で、その質を示す被引用数でも2位。それぞれ3位/6位の日本をすでに上回っている。最もホットな成果では、この6月に公開されたスーパーコンピュータの性能ランキング「TOP500」で、中国国防科学技術大学の「天河2号」が世界のトップに立ったことが挙げられる。

 本書は、その中国の最先端技術──スーパーコンピュータ、海洋科学、宇宙開発、原子力、iPS細胞、遺伝子解析の6分野について、施設・装置・研究内容を現地を訪れてレポートしたもの。元文部科学審議官の筆者が、中国の科学技術力を冷静に評価している。短期間で世界のレベルに追いつくために自前の技術にこだわらないことや、実用化・商用化への積極的な姿勢、圧倒的な人材の厚みなど、中国の科学技術研究の特徴を挙げながら、負の側面、すなわちハードウェアが先行して運用・利用が遅れている点、何を目的とした研究開発なのかが明確ではない点などを、その背景も含めて解説する。

 日本は、将来の科学技術大国である中国と、どのように向かい合っていくのか。筆者は、中国が抱える人材と彼らの経済センス、日本の技術とものづくりへのこだわりは、必ず相互にメリットを生むと結んでいる。(叢虎)


『科学技術大国 中国』
林 幸秀 著
中央公論新社 刊(760円+税)
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