BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『地方消滅』

2014/10/09 15:27

週刊BCN 2014年10月06日vol.1549掲載

日本を破綻させる「地方の消滅」

 日本の少子高齢化は、もはやのっぴきならない段階にまで来ている。少子化と長寿化で何となく帳尻が合ってきたようにみえる総人口は、この先、高齢者の死亡で確実に減っていく。若年層が都市部に移り、高齢者が多くなった地方の自治体は、生活関連サービスを提供できなくなり、やがて消滅する。一方、都市部、とくに東京は生産性を維持しているが、一極集中と人口流入が続くのは地方がそれを供給しているから。地方に供給能力がなくなれば、東京、つまり日本が衰退していく。人口減少社会が人口急減社会に突入する前に有効な対策を打つには、地方を消滅させてはならない。本書はこの重い問いに答えて、国家戦略の再構築を提言する。

 著者が着目するのは「人」。国家戦略の軸として、結婚・妊娠・出産・子育てへの一貫した支援による「人口の維持・反転」、地方の若者の流出を抑え、さらに都市部の若者を呼び戻す「人口の再配置」、一人ひとりの能力・資質の向上を目指す「人材の養成・獲得」を挙げる。

 少子高齢化がもたらす弊害が指摘され、解決策として地域活性化・地方分権が叫ばれだしたのは、最近のことではない。1962年に始まった全国総合開発計画(全総)や、それを継承する21世紀の国土のグランドデザインは、すべて都市部と地方の均衡の取れた発展をうたっているし、1990年代からは本格的な少子化対策に取り組んできた。しかし、さしたる実効は上がっていない。官僚から県知事、そして総務大臣まで務めた人物が本書を著さざるを得ないほど、事態は切迫している。(叢虎)


『地方消滅』
東京一極集中が招く人口急減
増田寛也 著
中央公論新社 刊(820円+税)
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