生命原則を知り、それにあらがう

 コロナ禍で在宅勤務が続いたり、会合の自粛が求められたりしていることで、孤独を感じる人が増えているようだ。なぜ人間には孤独や不安といった不自由な感情があるのか。遺伝子解析サービス企業の経営者で、生命科学の研究者でもある本書の著者によれば、一見非効率に見えるこれらの感情も、生命としての生存戦略上有利だと考えられているからだという。例えば孤独感は、集団生活によって生き延びてきた人類が、一人で生きるという危険を察知し、それを避けるために備わった機能であり、孤独を感じている状態とは、そのメカニズムが正常に働いているときとしている。

 このように、人が本能的に行う行動や、無意識に抱く感情には、すべて生物学的な意味があるという考え方がある一方、だとすると、普段自分の意思で歩んでいると思っている私たちの人生も、進化の過程で遺伝子に刻まれたプログラムを実行しているに過ぎないのだろうか。それは違う。著者は、生命の原則を知った上でそれにあらがうことができるのが人類であり、そこに希望があると説く。生物個体のエネルギー消費を考えれば、ただ本能に従って「思考停止」するのが最も効率の高い状態だが、人間は思考することで高度な社会を築いてきた。快楽を得る方向に行動する生命体でありながら、より良い未来のためにエネルギーを使う理性を持っているのだ。生命の仕組みを知ることで、人はより情熱的になれるのかもしれない。(螺)
 


『ビジネスと人生の「見え方」が一変する
生命科学的思考』
高橋祥子 著
NewsPicksパブリッシング 刊(1800円+税)