BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『なぜヒトだけが老いるのか』

2023/07/21 09:00

週刊BCN 2023年07月17日vol.1977掲載

「老化」の意義

 「老化」と聞くと、多くの人がネガティブなイメージを抱きがちだろう。肌はしわしわになり、動きはにぶく、物忘れが増える。できれば避けて通りたいという気持ちになるのも仕方がない。しかし、この「老化」はヒト特有の状態であり、生物学的に重要な意義を持つという。

 本書は、歳を重ねることで経験や知識、技術をなどを得た「シニア」が社会にとって必須の存在であり、「老い」のおかげで人類の寿命が伸び、文明社会の構築につながっていると説明する。シニアは子育てや教育に貢献し、コミュニティーを安定させ、より豊かにする役割を担う。長寿で元気なヒトがいる集団が「強い集団」となったがゆえに、老いたヒトがいる集団が選択され続けた結果、ヒトは生理的な寿命を拡張し、「老化」という特性を得たのだそうだ。

 筆者は高齢化社会において、シニアは公共の精神をもって、社会をよりよくすべき役割があると訴え、具体的な社会課題に対して、シニアがどのように力を発揮できるのかを示している。家族や社会のあり方が大きく変わる中で、シニアはどうふるまうべきかわからず、孤立している面もあるように思う。シニアがいかに公共心を養えるかが、現代の日本の大きな課題になりそうだ。(無)
 


『なぜヒトだけが老いるのか』
小林武彦 著
講談社 刊 990円(税込)
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