北斗七星

北斗七星 2024年1月1・8日付 vol.1997

2024/01/12 09:00

週刊BCN 2024年01月01日vol.1997掲載



▼大好きだったミュージシャンの訃報が届いた。いまだに信じたくない気持ちが強い一方、報道などで現実を突きつけられ、心にぽっかりと穴が空いている。身内を亡くした経験を踏まえると、こればかりは時が癒してくれるのを待つしかない。

▼デジタル技術の進化は死との向き合い方を変えるという見方がある。ミュージシャンは「死後も作品は残る」と言われるが、現代では一般人でも写真や動画といったデータがSNSなどのデジタル空間にあり、アクセスすれば、そこにまだいるかのように感じる。亡くなった著名人をAIで再現する試みが物議を醸した例も記憶に新しい。

▼しかし、どれだけ大量なデータでも、この心の穴は決して埋められないようにも思う。故人と同じ容姿、人格、記憶を有したアンドロイドが現れたとしても、それはあくまで「過去」をまとめたもの。新しい「未来」が生まれるとは思えない。

▼結局のところ、残された者は死を粛々と受け止め、思い出とともに生きていくだけだ。純然たる死の重みは技術をもってしても変えられない。あのミュージシャンが歩めなかった未来を、彼が遺した音楽とともに、私は懸命に生きたい。(無)
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