色あせない作り手の情熱
レコードを聴いているかのような温かな前奏の後に始まる「髪をほどいた」。カラオケでも歌い出しのタイミングが難しい。本書を読んで、あの独特な響きの理由が腑に落ちた。
2013年に亡くなった大滝詠一の音楽人生をたどった一冊である。本書のタイトルにもなった「幸せな結末」は、1997年放送のフジテレビの月9ドラマ『ラブジェネレーション』(木村拓哉、松たか子主演)の主題歌として知られる。曲の完成が、ドラマの放送開始わずか数日前だったことに驚かされた。
印象に残ったのは、音楽だけに閉じこもらない姿勢である。野球や相撲、政治、落語など幅広い分野に関心を寄せ、それらを創作の糧にしていた。好奇心の赴くままに知識を吸収し、自らの作品へと昇華していく。その熱量が伝わってくる。
大滝はアナログにもこだわった。「サンパチ(テープ速度38センチ/毎秒)、シブイチ(テープ幅1/4インチ)」といったアナログ盤時代の録音環境を徹底して追求。当時、デジタル録音への移行が進むなかでも、音に対する妥協はなかった。
「より良いものを届けたい」という姿勢は、時代を超えて色あせない。テクノロジーは進化しても、人の心を動かすのは、作り手の情熱や妥協しない姿勢なのかもしれない。(洛)
『幸せな結末 大滝詠一ができるまで』
萩原健太 著
文藝春秋 刊 1925円(税込)