店頭流通

どうなる? これからのパソコンビジネス 一般消費者へ新たな訴求が必要

2002/01/14 16:51

週刊BCN 2002年01月14日vol.924掲載

 2001年12月の店頭パソコン販売の状況を振り返ると、ウィンドウズXP発売の効果も虚しく、デスクトップが台数ベースで前年同月比53%、金額ベースで同60%、ノートでは台数ベースで同75%、金額ベースで同71%と、前年を大きく下回る厳しい数値となった(すべてBCNランキングによる)。しかし、これらの数値から、一概に「不調」といってしまうのはどうだろうか。一時期のパソコンバブルが異常であるという見方に立てば、今の状況はむしろ市場が正常に戻ったともいえる。世帯普及率50%を突破し、家電製品と同列に近づいたパソコンを巡る市場環境は、新たな段階を迎えるはずである。(谷古宇浩司●取材/文)

メーカーから販売店まで、やはり厳しかった01年
2002年も厳しい市況が続く?

 年末年始、秋葉原、新宿、池袋、有楽町地区の大手パソコン専門店とパソコンメーカー各社を取材した。彼らの口から出る言葉はもちろん千差万別だが、それでもいくつかの共通点を見出すことができる。

 それは、(1)01年度は総じて市場環境が厳しい状態にあったこと、(2)パソコンという商品のバブルなビジネスは確実に過ぎ去ったと認識していること─の2点である。

 パソコンの流通構造上、最も“川下”に位置するパソコン専門店にとって、バブルビジネス期は、とくに新製品が登場する商戦期では入荷すればすぐ飛ぶように売れた時代である。97-99年あたりがその時期だ。大量販売を望むメーカーからバックマージンを受け取ることで、たとえ在庫数が拡大しても、一定期間内に製品がはける安心感があった。

 粗利率が仕入れ値の10%にも満たない薄利ビジネスとはいえ、大量に販売すれば確実に利益は確保できたのである。

 しかし、需要が停滞し、競合店舗との厳しい価格競争になれば、そのようなビジネスを継続することが難しくなる。ふくれ上がる在庫は資金繰りを圧迫し、経営危機に陥る店舗も出始める。一方、いったん始まった価格競争を途中で止めることはできない。

 “川中”のディストリビュータも市場低迷の煽りを受けることになる。メーカーに大量発注し、全国の各販売店に卸すビジネスモデルは、大量販売が盛んな時代には通用するが、一方で、付加価値不在の右から左へと流通させる方式では、利益の確保は非常に困難である。

 ソフトバンク・コマースやカテナといったかつての流通大手は、現在ではシステムインテグレーションやソフトウェア開発など、付加価値を生み出すビジネスへと業態を転換しており、純粋な意味での卸企業はすでに存在しないといっていい。

 最も“川上”に位置するメーカーの状況はさらに厳しい。メーカー各社は、的確な需要予測が行えるはずのSCM(サプライチェーンマネジメント)を導入し、適正な在庫管理という試みを始めた。だが、メーカー、メーカー系1次販社、メーカー系2次販社、卸、販売店という、日本固有の複雑な流通のしくみに馴染まず、結果として、在庫品の大幅な削減と適正管理にまでは至らなかった。

 パソコン流通の苦境のすべての元凶を、予想不可能な市場環境に置くのは簡単だ。

 しかし、インターネットの名の下、バブルなビジネスに酔った関係者の甘い判断があったのも確かだろう。

 BCNランキングによると、デスクトップパソコンの販売台数は、01年10月に前年同月比51%、11月に同61%、12月に同53%という前年割れの厳しい数値を示している。金額ベースでは10月で同52%、11月で同68%、12月で同60%だ。

 ノートパソコンはデスクトップと比較すると「傷が浅い」が、それでも台数・金額ベースともに前年同月比70-80%程度の厳しい状態にある。

 ここで注目したいのは、12月の状況だ。11月16日発売のウィンドウズXPがパソコン販売にどれだけ貢献したのか、その検証の意味も含め各店舗に取材して回った結果、ほとんど前向きな回答は見出せなかった。

 「ブロードバンド」というキーワードを前面に押し出したのがウィンドウズXPであり、事実、ADSLの世帯普及率は上昇傾向にあったのに、である。

 もちろん、新OSの登場による買い替え需要が起こったことは確かであろう。そのことは、POSデータの11月の数字を見れば、OEM版搭載の新機種の需要により販売台数の数値が押し上げられたことがわかる。

 だが、その伸びも急激なものではなく、12月に入ると10月の水準に戻ってしまった。

「安く、しかも高性能」パソコンは日用商品に

 販売店の実感をいくつか拾ってみると、決して客足は落ちてはいないという。

 新宿地区のベスト電器新宿高島屋デジタルスクエア21、ヨドバシカメラ新宿西口店、ソフマップ新宿4号店、さくらやなど、客足自体は年末、年始とも前年を若干上回る活況を呈している。

 ただ、パソコン自体の売れ行きに関しては満足行く状況ではない。そのことは、秋葉原のラオックス ザ・コンピュータ館やT・ZONE.ミナミ、あるいは有楽町、池袋のビックピーカンでも同様の傾向を示している。最も強力な売れ筋製品はデスクトップ、ノートともにソニーの「VAIO(バイオ)」シリーズという。

 デルコンピュータ日本法人の浜田宏社長は言う。「パソコンは完全にコモディティ(日用品)化した。購入者にとって、安く、性能が良く、アフターサービスが充実した製品でなければ売れない。しかもそうでなければ、メーカー自体のビジネスが堅調に推移しない時代なのだ」。

 日用的な製品と化したパソコンは、多くの家電製品と同様、価格競争の波に揉まれるのは当然だ。店頭で購入する消費者にとって、パソコンとは珍しい商品ではなくなりつつある。

 一般消費者への新たなる訴求に向け、メーカー、販売店は、ブロードバンドインフラに活路を見出し、家庭内エンターテインメント環境の中枢にパソコンを据える戦略を掲げ始めている。また一方で、店頭というチャネルを一般消費者から、SOHO、中小企業向けの窓口に転換する日本IBMのようなメーカーや、店舗そのものを企業向けに変貌させるラオックスのような販売店も登場し始めた。

 パソコンバブルは完全に過ぎ去った。現在の状況は、決して不調なのではなく、むしろ市場としては通常の状態に落ち着きつつあるのではないだろうか。
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