店頭流通

専門店化する電気街 競合店同士の連携が必要

2002/06/03 16:51

週刊BCN 2002年06月03日vol.943掲載

 5月31日、東京・秋葉原のT・ZONE.ミナミ店が閉店したことは、1994年に同店が華々しくオープンした当時を知っている者にとって感慨深いものがある。

 当時はパソコン販売が拡大し、大型パソコン販売店が全国に続々と登場していた時期だった。秋葉原地区で先行していたラオックス ザ・コンピュータ館を上回る規模のT・ZONE.ミナミ店は、大きな注目を集めた。今回、「秋葉原を訪れるマニアユーザー向け事業に経営リソースを投入する」(T・ZONE.安井淳一郎代表取締役会長兼CEO)とアピールする通り、同日付で新たにオープンした「T・ZONE. AKIBA PLACE店」はマニアを意識した店で、ミナミ店とは全く異なるコンセプトになっている。すでにザ・コンピュータ館も昨年11月にSOHO向けにリニューアルを行っており、秋葉原の大型パソコンショップは一時小休止という事態になってしまった。

 もっとも、これは秋葉原だけではない。大阪・日本橋、名古屋・大須にも共通している。小規模専門店の方が、大規模パソコン販売店よりも調子が良い。郊外に大型家電店、大規模な駅ターミナル近辺にはカメラ量販系の大型店舗が次々にできていることから、逆に電気街は「わざわざそこに行かなければ購入できない商品を揃えた店」が人気を集めている。すでに、この10年の間に、冷蔵庫やテレビといった家電製品の販売の中心は、電気街から郊外の家電店、カメラ量販店に移行しており、電気街はいずれも「パソコンの街」になっている。そのパソコンもパーツなどを除き、販売の場が移ろうとしている。T・ZONE.の安井会長の言葉通り、「秋葉原を訪れるのはマニアユーザー」で、秋葉原はパソコンの街というよりも、「マニアの街」となりつつある。しかし、街角を見比べていて気になるのは、「マニア向け」といいつつも、置かれている商品に差がなくなってきていることだ。来店者が多い店を比べると、多少の差はあるものの、パーツ製品を集めた店が低価格をアピールしている。というよりも、むしろ価格以外のアピールポイントがあまり見あたらない。

 こうしたマニア向け店舗は、ECの影響を最も受けやすく、「新しい商品が登場し、自分で見に行って確かめなければならない場合を除いては、来店者が減ったり、来店はするものの物は買わないということになりがち」との声を聞く。価格だけをセールスポイントにしていたのでは、行き詰まってしまうのである。秋葉原で店員として働いていた経験をもつ島川言成氏に、「もし自分で今の秋葉原に店を開くとしたら」と質問をした時、「ビルの上の方の狭いスペースに、マイクロソフトの開発者向けのツールだけを専門に集める店舗を作るといった、思い切ってコンセプトを絞り込んだ極端な店を作るのも面白い」という答えが返ってきた。この質問をしたのは昨年のこと。あれからほぼ1年が経つものの、それだけ極端な店はまだない。秋葉原のパソコンマニア向け店舗というと、パーツ類を販売する店にとどまってしまう。電気街の場合、似たコンセプトの小規模店舗が複数集まることで、ユーザーは大規模店舗に訪れた時と同様の商品数を選ぶ機会を与えるわけだが、それにしても似たような商品だけを集めた店が多過ぎる。

 パソコンマニア向け商品というカテゴリーであっても、もう少しバラエティーに富んだショップが登場してきてもよいのではないか。電気街発展のためには、1つの方向に染まってしまうことは、決して健全でない。電気街の各店舗は、競合同士でもあり、協力して街を盛り上げるのが難しい部分もある。だが、街全体が盛り上がらなければ、個々の店舗にとっても発展はない。今、日本の温泉街として最も人気を集める街となった大分県・湯布院は、別府という有名温泉地に対抗するため競合関係にある各店舗同士、協力し合って街全体の質の向上を図ろうと勉強会などを行っている。電気街の競合店同士、そんな連携を模索してもよい時期なのではないだろうか。(三浦優子●取材・文)
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