店頭流通

苦戦続く中国のEVD DVDに代わる商品になるか?

2004/03/08 16:51

週刊BCN 2004年03月08日vol.1030掲載

 上海新秦信息諮詢有限公司(上海サーチナ)では、傘下サイト「新秦調査」のオンラインモニターを利用して、EVD(Enhanced Versatile Disk)に関するマーケティング調査を行った。EVDは、中国が独自の知的財産権を有し、性能面でもDVDを上回る商品。映像機器市場でDVDの勢いを止めるものとして発売前から注目されていた。しかし現在、EVDはその期待に反して、一向に売り上げが伸びていない。苦戦が続くEVDを、中国の独自規格戦略の今後とともに検証した。(吉田雅史(サーチナ)●取材/文)

■ビデオCDからDVDへ

 今回の調査は2003年12月26日から04年1月19日まで、「新秦調査」オンラインモニターを電子メールによるDM(ダイレクトメール)によって調査アンケート票URLに誘導して行われたもので、有効回答数は5000件。EVDが発売されたのは04年に入ってからであり、この調査では発売前から販売初期における消費者の意見を聞いている。

 今年1月22日の春節(旧正月)以前で、中国全土におけるEVDの販売台数は予想をはるかに下回る1500台となった。また、販売のピークを迎えるとされた春節の大型連休でも、売り上げは伸び悩んだ。

 中国の映像機器市場では現在、VCD(ビデオ CD)からDVDへの移行が急速に進んでいる。もっている映像機器の種類を聞いたところ(複数回答)、VCDが60%と最も多くなった。次いで多かったのがDVDの38%。さらに視聴目的としての「DVD搭載パソコン」が31%に達した。また、ビデオは約20%、EVDは販売初期ということもあり2%程度となった。

 「次に購入する映像機器」については、DVDが最も多く36%、次いで23%の「DVD搭載パソコン」となった。これに対して、所持率60%に達したVCDは一気に3%まで低下。DVD人気の高まりとVCDの衰退を明確に示している。EVDは、9%近くまで上昇したが伸び悩みは明らかで、今後も苦しい展開が予想される。

■DVDとの差は歴然に

 EVDがライバル視するDVDとの差は歴然となった。そもそもEVDは、中国のメーカーが、輸出DVDにおいて、6C(DVD特許技術をもつ日立製作所、松下電器産業、三菱電機、東芝、日本ビクター、米タイムワーナーの6社)に莫大な特許使用料を支払っている現状を打破するために開発された。中国が国を挙げて独自規格を推進するなかで、EVDは次世代の映像規格技術として重要視されている。

 EVDは中国メーカーが技術特許の大部分をもっているため、特許使用料の支払いはDVDの3分の1程度に抑えられるといわれる。EVDが爆発的な人気を博せば、海外メーカーも生産を移行せざるを得なくなる。この時に海外メーカーのEVD生産に対して、特許使用料の支払いを要求し、差し引きをゼロにすることが中国メーカーの最終目的とされる。

 そのためにも、まずは巨大な中国市場で人気を博すことが最低条件だ。しかし、EVDが現在、きわめて苦しい立場に立たされていることがわかる。

 この要因の1つとして、消費者のEVDに対する理解が浅いことが挙げられる。「EVDをどの程度知っているのか」との質問に対して、「よく知っている」と答えた人は6%弱。「ある程度知っている」、「名前は聞いたことがある」はそれぞれ30%程度となり、「知らない」が最も多い33%に達した。

 また、発売前からのEVDの関連報道が、その性能面などの優位性よりも、高価格、高画質テレビの低普及率、ソフトの不足などマイナス面が強調されたことも、販売に大きく影響したと考えられる。

 マイナス要因の1つに挙げられる価格面では、これを裏付ける明らかなデータが得られた。映像機器を購入する際の価格帯では、1500元(約1万9000円)以下で8割近くに達した。一般機能のDVDが1000元(約1万3000円)以下で販売されているのに対して、EVDの価格は2000元(約2万6000円)程度。さらに今後、ハイエンドモデルのDVDの値下げが予想される中で、EVDには値下げに踏み切れない理由がある。

 EVDは、中国メーカーが大部分の技術特許を有しているとされるが、あくまでもDVDをベースに改良・開発されている。このため、依然としてコア技術は6Cに握られており、一定の特許使用料を支払わなければならない。値下げをすれば、特許使用料の支払いの下で、利益率はそれだけ低下することになる。

■消費者の信頼獲得が課題

 しかし、これらマイナス面が目立つなかでも、EVDの今後に期待できる結果も出ている。EVDの性能など簡単な説明を付け加えた上で、「EVDを購入したいと思いますか」と聞いたところ、「したくない」は20%で、「したい」と答えた人は39%に達した。

 また、「映像機器を購入する際に国内ブランドと海外ブランドのどちらを選択するか」を聞いたところ、「国内ブランド」と答えた人は、「海外ブランド」の約2倍にあたる49%に達している。今後、消費者のなかで、EVDに対する知識と国産メーカー擁護の意識が高まれば、爆発的に普及する可能性も秘めている。

 そのためには、まずEVDが消費者の信頼を得ることが先決となる。EVDを購入したくない理由では、「将来性に不安」が最も多くなった。現在、中国メーカー自体がEVDに対しておよび腰な態度をみせていていることも、消費者の不安を助長させている。

 調査を通じて、消費者が独自規格であるEVDに大きな期待を寄せていることは確かだ。一方で、それを消費につなげるだけの基盤が中国市場ではいまだ確立していない。これは、中国の独自規格戦略にとっても大きな課題といえそうだ。
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