店頭流通

陰り始めたPDA ソニー、欧米市場から撤退 携帯電子機器の将来

2004/07/05 16:51

週刊BCN 2004年07月05日vol.1046掲載

 ソニーが欧米のPDA(情報携帯端末)市場からの撤退を決めたことで、PDAの将来性を疑問視する声が米国の関係者の間であがっている。PDAは、電子財布やデジタル家電のユニバーサルリモコンの役割まで果たす究極の携帯電子機器になるとみられていたが、携帯電話に取って代わられるのだろうか。

 ソニーは、今秋に予定されていた米国でのPDA「クリエ」の新モデル投入を取り止め、欧米市場などから段階的に撤退することを決めたという。日本市場では今後もクリエの新機種の開発を続ける。

 一方、調査会社キャナライズがまとめた2004年第1四半期の携帯電子機器の売上高統計によると、PDAの売上台数は増加しているものの、増加率では高機能携帯電話に大きく水を開けられている。携帯電話の高機能化が進みPDAと市場が融合するなかで、PDAよりもスマートホン(高機能携帯電話)が優勢のようだ。

 調査会社ガートナー・グループは、今年のPDAの販売台数を1170万台、05年を1160万台、06年を1150万台と予測、今後減少傾向が続くとしている。

 PDA関係者にとっては暗い話ばかりだ。米国では「PDAは死んだのか」(某パソコン専門ニュースサイト)などという報道が続いている。なぜここにきてPDAの将来に陰りが出始めたのだろう。

 1つには、携帯電話の個人情報管理機能が向上し、PDAのそれと比べ遜色なくなってきているということが挙げられる。機能が変わらないのなら通話できる分だけ携帯電話の方が利用価値が高い、ということだ。

 また携帯電話のメーカーが色や形を工夫しファッション性を高める努力をしているのに比べ、PDAの画一的なデザインが敗因の1つという意見もある。

 こうした傾向に加え、携帯機器向けのスクリーンの投影技術やバーチャルキーボードなどの技術の進歩で、ノートパソコンでできることがすべてできるようになれば、携帯機器が一般消費者向けの携帯総合電子機器になる可能性がある。そうなれば、PDAは特定ビジネスマン向けや医療、配達、倉庫などの現場向けのニッチな携帯機器になっていくものとみられる。

 PDAではなく、携帯電話が携帯電子機器の主役になるわけだ。このことは、IT業界にどのような影響を及ぼすのだろうか。

 PDAはいわば超小型パソコン。PDA用OSはどれもウィンドウズとの親和性が高く、PDAが携帯電子機器の主流であれば米国パソコン業界はこれまでの秩序を維持できることになる。マイクロソフトを始め米国のIT業界がこれまで、PDAを将来の電子財布やユニバーサルリモコンの原型として推進してきたのはそのためだ。

 一方の携帯電話は日本やヨーロッパが開発競争の最先端を走る。開発に当たってはユーザーの使い勝手が最優先で、パソコンとの親和性は二の次。OSもウィンドウズとの親和性がほとんどないものが多い。

 パソコンの普及率が頭打ちになるなかで、携帯電話がパソコン以上に普及するということは、力関係で携帯電話の方が優位に立つ可能性があるということ。つまり今後は、パソコンで作成した書類を携帯電話上で読めるようになったり、携帯電話上の電話番号やメールアドレスをパソコン上のものと同期させたりと、携帯電話とパソコンの親和性の一層の向上が模索されるなかで、歩み寄らなければならなくなるのは携帯電話業界ではなく、マイクロソフトを中心とする米国パソコン業界になる可能性が出てきた。IT業界の勢力図が大きく変わるわけだ。

 パソコンが登場したときには、メインフレームを扱う企業は、パソコンを「子供の玩具」としてばかにした。今日、パソコン関係者の間では、携帯電話を「女子高生のおもちゃ」とばかにする声もある。

 IT業界の猛者が数多く挑んだけれど崩せなかったマイクロソフトの牙城。切り崩すことになるのは、ほかならぬ「女子高生の玩具」である携帯電話かもしれない。(湯川鶴章)
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