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<BCN REPORT>Mac World Expo開催 ユーザー層の広がりが顕著に

2004/07/26 18:45

週刊BCN 2004年07月26日vol.1049掲載

 今年もマック・ワールド・カンファレンス&エキスポが、7月12-15日の4日間開催された。今回は、これまで長く親しまれてきたニューヨークを離れ、7年ぶりに古巣のボストンに帰ってきた。しかし、主催社であり雑誌「マック・ワールド」の発行元でもあるIDGは、アップルコンピュータとの合意が得られず、アップル抜きでの開催という前代未聞の事態となってしまった。一見先行きが心配されるかのような状況だが、だからこそアップルの明るい将来が垣間見えた側面もある。ニューヨークとは趣の異なる、ボストンでのイベントの様子をお届けする。(田中秀憲(ジャーナリスト)●取材/文、椎木晃一郎●写真)

iPod人気が牽引

アップルは出展せず

 今年の会場は、2004年7月に竣工したばかりの、ボストン・コンベンション&エキジビションセンター(BCEC)だ。移転の背景には、同じくボストン郊外に本拠地を構えるIDGによる行政への配慮が見え隠れする。移転に関しては、すでに02年10月の時点でアップルからの反発が表面化し、最後のニューヨーク開催となった昨年の会期直前には、翌年以降のアップルの不参加が確実視されていた。そして強引に会場を移転した今年は、遂にアップルの不参加が現実のものとなった。

 アップルの不在は、イベントに大きな影を落とした。出展企業はサンフランシスコでのイベント(04年1月6-9日)では240社だったが、今回のボストンは80社程度。しかも直前まで出展勧誘を続けていたためか、ブース案内のパンフレットは粗雑なコピーを配布。しかも記載が間に合わなかった出展社もあった。集客も1万人程度と見られ、サンフランシスコの3万人以上と比べ、いささか見劣りする展示会となった。

 通常であれば、アップルのスティーブ・ジョブスCEOらが行う基調講演。今回は、なんとアップル創業期の開発メンバーが集まった。招聘されたのは、ビル・アトキンソンやアンディー・ハーツフェルドといった伝説的な面々だ。しかし、彼らのスピーチ内容はさほど興味を引くものではなく、しかも最後にはアップルとジョブスへの非難で終わる始末となった。

■教育関連の出展で賑わい

 そんななか、アップルに明るい材料が多かったのは幸いだ。まずボストンという土地柄からか、教育関連の出展が多かった。この分野での地位を築きたいアップルとしては喜ぶべき傾向である。キッド・ピクスで有名な、各種幼児用教育ソフトを提供するマッキエフのブースは、子供連れの参加者に大人気だったし、大学やその他の教育機関を母体にもつ出展社も多く見られた。

 特筆すべきは、iPod関連商品の充実だ。各ブースではiPod用のアクセサリが所狭しと並べられた。加えて専用のスタンドや追加のバッテリー、果ては車載キットなどが多数リリースされ、特にiMac用の美しいスピーカで人気のJBLは、リングケーキのようなiPod専用スピーカーを展示。ユーザーの注目を集めていた。

 このような現象は、最初期のアップルの製品では当たり前のことだったし、最近では初代iMacの発表時にも、半透明のアクセサリが数多く揃えられていた状況に似ている。ユーザーがお気入りの製品をさらに心地よく使うための環境が整っているというのは、アップルにとっては喜ばしい状況と言える。

■転換期を迎える

 現在のアップルは大きな転換期にある。古くからの熱心なマックユーザーは、熱心であるがゆえにいささか懐古趣味が強かった。今回の基調講演に、IDGが初期開発メンバーを集めたことは、まさにその象徴だ。しかしiMacの成功からiPodまでの流れは、アップルの製品がすでに「オタク」御用達ではないことを如実に示している。現在のアップルは、もはや違うレールの上を走り始めており、そしてそれは成功していると言えるだろう。

 自社の独自技術を駆使し、パソコンを低温に保つ特殊なコンピュータラックを出展していたノランのデビッド・マーチン・マネージャーは、デスクトップのG5が水冷システムとなり、一層プロ向けになったことで出展を決めたという。もっとも、「われわれのような業務向け製品を扱う企業は、今後はこの種のイベントではなく、別なPR手段を考えなくてはならないだろうね。iPodのアクセサリを求めるユーザーは業務用機器にはあまり興味がないようだ」と述べ、iPodやiMacといった商品群と、G5などの上位機種が、それぞれ独自のユーザーを確保していることを示唆した。

 会場内にパソコン新製品が並べられないことによって、魅力の中心がiPodなど新しい製品群にあることが、浮き彫りとなった。iPodのケースを吟味する現在のユーザー層がアップルの顧客の中心となれば、今後はアップルというだけで一括りのイベント開催がよいのかどうかも大きな検討事項となるだろう。そしてその答えは、次期新型iMacの発表時までには必要だ。

 アップルは会期直前に、新型iMacの発売が遅れることを認めたが、会期中にはiPodの人気に支えられた売上高が、前年同期比30%増、純利益は同3倍強になったと発表した。iPodの成功は今後も多くのライバル企業の参入を促すだろう。また、ハイエンド機と入門機それぞれにデスクトップとノートというシンプルなラインアップしかもたないアップルは、今後も複数の異なったマーケティングを成功させる必要がある。

 困難な作業ではあるが、iPodのヒットで、久しぶりに自社のユーザーと友好的に向き合うことのできる環境が整ったアップル。同社の今後は、非常に期待が持てるのではないだろうか。
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