店頭流通

家電量販、提案型の店舗へ

2005/01/10 16:51

週刊BCN 2005年01月10日vol.1071掲載

2005年は“デジタル”がキーワード

ITとAVの融合も視野に


 2005年は“デジタル”をキーワードに提案型の店舗づくりへ──。パソコン専門店や家電量販店では、パソコンを中心とした情報関連機器と、薄型テレビやDVDレコーダーをはじめとするデジタルAV(音響・映像)機器の垣根を取り払った店舗形態を目指す動きが出ている。昨年はパソコンの低価格競争に一段と拍車がかかり、閉鎖を余儀なくされるショップも相次いだ。ユーザーの潜在ニーズを掘り起こし、「商品を仕入れて売る」という単なる小売りからの脱却を迫られるなか、各ショップはあの手この手で個人向けソリューションを見出そうとしている。(佐相彰彦●取材/文)

■宇冬商戦はデジタルAV機器好調、パソコンも徐々に回復

 昨年夏のアテネオリンピックを機に市場が急拡大したデジタルAV機器。夏商戦では、販売台数ベースで前年同期の3倍以上の伸びを記録したショップが多く、薄型テレビやDVDレコーダーをはじめとしたデジタルAV機器が一躍売れ筋商材になった。

 続く冬商戦は、夏の反動で需要が激減するとの見方もあったが、蓋を開けてみれば暮れのボーナス時期、クリスマス、年末年始ともに堅調に推移。「薄型テレビに関しては、28インチ、32インチの液晶テレビが値頃感のある価格帯に入ってきたことから購入者が増え、販売台数は前年同期を上回った」(ラオックス)、「前年同期を大幅に上回る販売台数を達成した」(ソフマップ)などの声が挙がる。デジタルAV機器需要の拡大は、ショップの販売に活気をもたらした。

 パソコンについても、テレビチューナーなどAV機能を搭載したモデルを中心に販売が徐々に回復してきたという。「AVパソコンは、テレビと遜色ない画質になってきている。そのため、テレビ機能やDVD機能の良さがユーザーに認識され始めたのではないか」とみるショップや、「年末年始に引っ越しを行う家庭では、子供が自分の部屋にテレビとパソコンが欲しいということで、スペース面などを考慮して購入するケースが増えている」ことを挙げるショップは多い。

 しかも、テレビチューナーや記録型DVDが搭載されていないモデルと比べて販売単価が高いことから、売上高の拡大にもつながっている。

 このほか、アップルコンピュータの「iPod(アイポッド)」をはじめとする携帯型デジタルオーディオプレイヤーが3万円前後の価格で手軽に購入できるようになり、クリスマス商戦では若者や会社員などを中心に需要が増大した。

 また、昨年12月は任天堂が携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」、ソニー・コンピュータエンタテインメントも同社にとって初の携帯型ゲーム機「PSP(プレイステーションポータブル)」を発売。久々の新型ゲーム機の登場とあって、発売日には長蛇の列ができるなど「出せば売れる」という現象が起きた。

■消費者の購入意欲に回復の兆し、デモコーナー充実がカギ

 ショップの声を聞くと、消費者の家電機器、情報関連機器に対する購入意欲は戻ってきていることは間違いなさそうだ。ラオックスでは、「年末は全体的に前年同期比5-6%減の客足だったが、年明けは元日が土曜日だったこともあり、秋葉原電気街、郊外ともに客足が増えた」としたうえで、「この正月は休みが短かった企業も多く、旅行に行くよりも家でテレビなどを見てくつろごうという消費者が多かった。そのため、パソコンやデジタルAV機器の購入者が増えたのではないか」と分析している。

 デジタルAV機器など新しい売れ筋商材が店頭の主役となってくるなかで、ショップが直面する課題は低価格化による利益幅の減少だ。「薄型テレビは粗利率が低くなってきている」(ムラウチ)。今後も、ますます価格の下落が進むといった見方は強く、各ショップとも1ユーザーあたりの購入単価を上げるなど、いかに利益を確保していくかが焦点になってくるといえそうだ。

 その打開策として、“デジタル”を切り口とした展示に力を入れるショップがここにきて増えている。

 東京・秋葉原電気街のラオックス「ザ・コンピュータ館」は、店の“顔”となる1階のフロアに携帯オーディオプレイヤーとパソコンを展示。パソコンから音楽を簡単にダウンロードできるデモコーナーを設置したり、デジタルカメラとダイレクトプリンタを結び、パソコンなしでも簡単に写真が印刷できることをアピールしている。来店者にパソコンやデジタルAV機器の利便性を分かりやすく示すことで「早く手に入れたい」という消費意欲をくすぐり、購入単価のアップにつなげる狙いだ。

 ベスト電器では、「それぞれの地域特性に合った独自性のある店舗を作っていく」(緒方政信・執行役員東京商品部長)との方針のもと、ITとAVが融合した販売コーナーの設置を積極的に進めている。競合店との差別化を図るためには、提案型の店舗作りが実現できる情報関連機器をいかに迅速に調達できるかがカギになると判断し、商品調達部門の組織強化を進めている。

 昨年は、収益の伸び悩みから店舗の閉鎖に追い込まれるパソコン専門店や家電量販店が相次いだ。勝ち組として生き残るには、競合店との差別化要素をいち早く見出し、リピーター、固定ユーザーを増やしていくという基本を怠らないことが求められる。

サポートサービスで利益増に  
 
 利益を増やすため、サポートサービスの強化に力を注ぐパソコン専門店が出てきた。静岡県沼津市に本拠を置くZOAでは、アフターサービスを充実させることで低価格競争に飲み込まれない戦略を掲げる。
 同社の長嶋豊社長は、「パソコン本体はコモディティ(日用品)化が進んでおり、アフターマーケットでのビジネスを拡大することが重要」と判断、サポートの強化に踏み切った。「将来的には、パソコンおよび関連機器と、デジタル家電機器がネットワークでつながる時代が訪れる」とし、新しいライフスタイルの到来に備えて、家庭内のネットワーク設定サービスを視野に入れるなど、あらゆる機器がネットワークでつながる
ことが当たり前になった場合にいち早く差別化できる体制を着々と整えつつある。
 現在、パソコン専門店や家電量販店の間では、ポイント還元や現金還元などによる低価格競争が日に日に激しさを増している。そんななか、体力勝負では大手量販店に分があるのは明白。ZOAでは、低価格争という土俵には上がらず、パソコン専門店ならではの専門知識やサポートで勝負することが生き残りの道と判断した。
 同社の粗利益(売上総利益)率は昨年度で17.8%。今年度は18%を見込む。売上高は減少の見通しを示しているものの、「粗利益は前年度比12%増になる」と自信をみせる。
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