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<BCN REPORT>マックワールドエキスポ2005 「Mac mini」に注目集まる
2005/01/24 18:45
週刊BCN 2005年01月24日vol.1073掲載
低価格製品を相次ぎ発表

「アップルはウィンドウズOSに対抗するエントリーレベルのもっと安いシステムの販売を拒否していると批判されてきた。その批判への回答がこれだ」。
黒のタートルネックから「iPod shuffle」をぶら提げたジョブズCEOは、鈴なりの報道陣を前に同社史上初の激安パソコン「Mac mini」を披露した。「乗り換えを考えている人も、これで言い訳ができなくなるだろう」。
16.5cm四方×高さ5cm、重量1.3kg。両手にすっぽり収まるシルバーの“箱”は、正面にDVD/CD-RWドライブのスロットがあるだけのシンプルなデザイン。だが、中身はパワーPC G4プロセッサ内蔵のパソコンだ。
「Mac miniではBYODKM方式、つまり“Bring Your Own Display, Keyboard and Mouse(ディスプレイとキーボード、マウスは自己調達)”を採用した」と、ジョブズCEOが安さの秘密を披露すると、会場は爆笑の渦に包まれた。「われわれはコンピュータを提供し、それ以外はすべて皆さんが揃えるのだ」。
デスクトップ製品はiMac G5で1299ドルから、ひと昔前のiBookで999ドル、一番安いeMacでも799ドルはする。マックOS Xの最新版を搭載して499ドルはまさに破格。展示会開催前から大変な噂となったが、「あのアップルが500ドルはないだろう」と信じない人が半分だった。
「メルセデスがホンダやトヨタを相手に低価格な車を売り出すことに匹敵する」。調査会社ジュピター・リサーチのマイケル・ガーテンバーグ氏はその衝撃を語る。「GPSシステムもDVDプレイヤーも革張りのシートもない。しかしそこにはブランドと、そのブランドの製品が持つ品質が保証されているのだ」。

会場に入ると真っ先に目に飛び込んでくるのは「iPod」の横断幕。米国のクリスマス商戦だけで450万台を売り切って品切れ続出のマンモス商品だ。同機は2001年の登場から毎年500%という猛烈な勢いで成長を続け、携帯音楽プレイヤー市場のシェア65%を獲得、販売台数は既に1000万台を突破している。
エキスポ開催2日目。アップル経営陣はマッキントッシュの四半期売り上げが105万台に達したと発表(前年同期は80万台強)、「iPodの売り上げがマッキントッシュ全体の売り上げ伸長を生む“Halo(ハロー)効果”が見受けられる」と発表した。ハロー効果とは、良い点によって悪い点が見えなくなってしまうこと。販売店でもiPod目当ての客が落とすドルのお陰で売り上げは倍増中だ。
アップル信者でごった返す会場でも、一番の注目株は「iPod shuffle」。ハードディスクの代わりに安価なフラッシュメモリを初採用した噂の製品がズラリと並び、イヤホンで曲をシャッフルする(ランダムに聴く)来場者で鈴なりだ。早速試してみたが、音質はiPodと一緒。「25セント硬貨4個分」(ジョブズCEO)の超軽量なのでアームバンドなしでもこのまま首にぶら下げて走れそうだ。
同社の調査によると、iPodユーザーが好んで使うモードは“シャッフル”という。頻繁に曲を入れ替えて楽しむ分にはこれで十分だろう。

メインステージ先の「Mac mini」のコーナーは「社史上最も安い」という横断幕の下に黒山の人だかり。
その先のiPodの付属品コーナーでは、モノトーン&シルバーのシックなアップルカラーが支配する会場で唯一オレンジと赤のカラーを採用。セールストークも元気のいいものばかりで、いかにもHalo効果の震源地である。
ウィンドウズ対応のiPodでアップルを“初体験”し、「もっと揃えたい」と思ってはいるが値段の高さで購入をためらっている、そんな昨年来の潜在市場が生んだ激安化の“神話”が現実となったマックワールド2005。
「アップルコンピュータにとって初めて市場挽回のチャンス到来」(サンノゼマーキュリー)、「2005年はアップル元年となるのだろうか?」(USAトゥデー)、「一握りのiPodユーザーが新型Macを買うにしても、力関係が変わる可能性は確かにある」(マックワールドマガジン)。
アップルコンピュータの新たな戦略の勝敗が決するのは今から数年後だ。
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