店頭流通

松下とシャープ、難しい舵取り迫られる05年 正念場迎えるデジタル家電の両雄

2005/01/24 18:45

週刊BCN 2005年01月24日vol.1073掲載

 旺盛な購買意欲に支えられ、2004年は順調に拡大したデジタル家電市場。しかし、消費者が強い価格決定権を持つなか、原材料価格の上昇や輸出の鈍化などで、05年のデジタル家電メーカー各社は難しい舵取りを求められている。デジタル家電分野をリードする松下電器産業(中村夫社長)とシャープ(町田勝彦社長)も、新たな方針を決定し、難局の乗り切りを目指す。戦略商品の新工場の稼動や建設で、さらに大きなプレゼンス確保を狙う両社にとっても、いよいよ正念場を迎える年となりそうだ。(山本雅則(大阪駐在)●取材/文)

薄型テレビなどの価格下落に直面

■「05年から儲かっていく」

 「デジタル家電の価格ダウンで、収益力が上がらなくなるとは思わない。組み立てだけをやっているところは、儲からずに潰れるかもしれないが、(キーデバイスなどを持っていれば)寡占状況が生まれ、収益力は上がる」。

 松下電器産業の中村社長は、05年に予想されるデジタル家電の失速懸念を「杞憂である」と否定した。04年はアテネ五輪効果もあり、薄型テレビやDVDレコーダーなどの市場は活況を呈した。しかし、後半には減速、価格下落も進んだ。他社に先駆けてデジタル家電ラインアップを整えてきた松下電器は、「プラズマテレビも黒字化し、05年から儲かっていく」(中村社長)と期待していたところだった。それだけに「失速懸念」が独り歩きし、市場マインドを冷やせば、価格下落の加速などの悪循環に陥りかねない。06年度に営業利益率5%を目指す中村改革の行方にも影を投げかける。優位性の強調は、危機感の裏返しともとれる。

 先行開発を続けてきた次世代DVD規格「ブルーレイ」も、対抗する「HD DVD」陣営がソフトの取り込みで僅かにリードした。「製品化のピッチを上げるのは可能。ブルーレイに徹してやっていく」(中村社長)と言うが、リスクを抱えているのは事実。今春にも決着が考えられる標準化の動向で、リスクが顕在化する可能性もある。

■大型液晶パネル工場着工を決定

 松下電器と並ぶデジタル家電の雄であるシャープは、懸案だった大型液晶パネルの亀山第2工場(三重県)の着工を決定。06年10月から縦横それぞれ2メートルを超える「第8世代」のガラス基板を用いた大型パネルの生産を始める。

 町田社長は、新工場建設には技術的なブレークスルーが必要とし、ガラス基板の大型化競争には必ずしも肯定的ではなかった。しかし、世界最大の第8世代工場への投資額は1500億円で、現在建設中の韓国のLGフィリップスなどの第7世代工場より低く抑えた。さらに、原価の6割を占める部材についても、「材料メーカーとの共同開発でコストダウンが図れる」(町田社長)と、ブレークスルーの手応えを感じている様子。しかし、より注目すべきは「リスクヘッジ」の側面だ。

 第8世代工場の主力製品は、生産効率のいい45型と52型。その一方で、「第8世代基板は、32型でも効率がよく、(生産性では)亀山第1工場より有利」(町田社長)という。テレビの大型化を前提に設備投資競争が続いているが、メーカーの思惑とユーザーのニーズが合致するとは限らない。「65型は第6世代基板の方が効率的」、「60型を超える場合は、リアプロジェクションで」と、町田社長も新世代工場建設を「美人コンテスト」にするつもりがないことを表明している。利益率の高い中小型液晶パネルを有していることを含め、液晶に注力しつつもトータルのリスクヘッジに目途がついたことが、新工場建設を後押ししたようだ。

 シリコンサイクルが「谷」を迎える05年は、04年に比べ経営環境が厳しくなるとの見方はエレクトロニクス各社に共通している。商品ラインアップを見直すメーカーも出てきている。それぞれに決断を下した松下とシャープというデジタル家電の両雄も、いよいよ正念場を迎えたといえそうだ。
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