店頭流通

パソコン価格下落の予兆!?

2005/02/28 16:51

週刊BCN 2005年02月28日vol.1078掲載

大手メーカーが低価格モデルを発売

NECやアップルなど10万円を切る


 大手パソコンメーカーの間で、付加機能を削ぎ落とした低価格製品「プレーンパソコン」を発売する動きが出てきた。国内トップのNECが低価格パソコンのブランド「バリューワン」を立ち上げ、第1弾として2機種の販売を開始。買い増しユーザーを対象に需要を掘り起こしていくという。アップルコンピュータも、ウィンドウズユーザーの買い増し需要を期待し「Mac mini(マックミニ)」をこのほど発売。両社とも、パソコンのマーケットサイズを拡げるための策としているが、高付加価値モデルが売れなくなるリスクもはらんでいる。(佐相彰彦●取材/文)

■買い増しユーザーを対象に、需要の掘り起こしを図る

 NECが2月18日から店頭販売を開始した「バリューワンMT」シリーズは、インテルのCPU「セレロンDプロセッサ335」やDDR-SDRAMメモリなどの基本的な性能を維持。筐体の背面にカバーロックレバーを付け、工具を使わずに筐体の開閉ができるなどの拡張性をもたせた。価格はオープン。店頭で7万円程度で販売されている。

 春商戦向けに今年1月に発売したデスクトップパソコン「バリュースター」シリーズでは、高画質エンジン「ビジタル」搭載のテレビボードを開発したことで、液晶テレビと遜色ない高画質を追求するなど、AV(音響・映像)機能を搭載したモデルの拡販を徹底しているようにも見えた。

 そんなNECが低価格パソコンの販売を始めたことについて、NECパーソナルプロダクツの由水憲治・執行役員常務は「マーケット規模の拡大が狙い」と説明する。昨年末から今年にかけての年末年始商戦では、パソコンでテレビを見るスタイルが浸透し始めたことから、「AVパソコンの販売が好調だった」という家電量販店やパソコン専門店が多かった。

 しかしNECでは、「高付加価値モデルの需要が増える一方で、多機能モデルはいらないというユーザーも出てきており、2極化が顕著になってきた。こうしたユーザーの買い控えが起きている」(由水常務)として、需要を喚起するために低価格モデルの市場投入に踏み切った。

 確かに、メーカーが“付加価値”として謳っている機能は必要ないとの理由から、ショップブランドのオリジナルパソコンや自作パソコンに走るユーザーも多い。一方、ショップブランドと自作双方ともに、安い価格には魅力を感じながらも、サポートサービスなどの面で購入を踏みとどまるユーザーもいる。NECでは、「こうしたユーザーは、低価格パソコン市場の2割程度を占めている」(同)と見て、サポートが充実しているメーカー製パソコンでこうした需要を掘り起こせると読む。

 また、「近い将来、ホームネットワークを構築する家庭が急増する可能性がある。こうした環境下では、シンプルなパソコンをセカンドマシンとして活用するケースも多くなる」(同)と、将来を見越した取り組みであることも強調する。

 「マーケットのパイを広げる」という点では、アップルコンピュータも同様の動きを見せる。「ウィンドウズユーザーにマックを使う機会を作ることで、これまでとは異なったパソコンの用途を見出す可能性もある」(山元賢治代表取締役)とし、価格が5万8590円からの「Mac mini」を発売した。アップルにとっては、買い増しでMac miniを購入したウィンドウズユーザーが、メインマシンでもマックに乗り換えることを期待している。

■ショップブランドには脅威、AVパソコン販売減の可能性も

 大手パソコンメーカーが低価格モデルを登場させたことに、ショップの間では「サポートをメーカーが行い、しかも価格が安い。パソコン買い替えや買い増しの敷居を低くすることにつながる」と歓迎する声が出る。その一方で、「当店のオリジナルモデルの販売が下がる危険性もある」との懸念も聞こえてくる。組立パソコン用パーツ専門店にとっては、「自作パソコン初心者が減少する」と、低価格パソコンが脅威であることを指摘する。

 「ボリュームゾーン」といわれる価格帯が変化することも考えられる。メーカーサポート付き低価格モデルの登場で、これまでAVパソコンに目を奪われていたユーザーが、「余計な機能は必要ない」と意識し、低価格モデルを購入する傾向が強まる可能性がある。

 業界では、自作パソコンやホワイトボックス、ショップブランドのオリジナルパソコンといった低価格パソコン市場は、国内パソコン市場全体の10-20%に達しており、その比率は今後も増えるといわれている。そのため、他のパソコンメーカーにとっても見過ごしておけない市場になりつつあることは確かだ。

 富士通では、「低価格モデルを発売する予定はない」(田中博美・パーソナルマーケティング統括部コンシューマPCグループプロジェクト部長)と断言しているものの、これは低価格モデルが収益性の悪いビジネスとの判断から。「収益が確保できるビジネスモデルを構築できるならば検討する」(同)としている。当面は、「低価格モデルを出せば、これまでAV機能搭載機などで築き上げた高付加価値モデルの販売に悪い影響を及ぼす恐れがある」(同)と見ており、低価格モデルに手を出す気はないようだ。

 ショップが“売りやすい商品”、ユーザーが“買いやすい商品”の選別ポイントが価格の安さだけに絞られた場合、メーカー、ショップともにパソコン販売が収益の出ない不毛なビジネスになりかねない。低価格モデルが高付加価値市場を食いつぶすことのないよう、ユーザーに価格以外でも魅力を感じてもらえるような商品づくりが一段と重要になってきたことは間違いない。

イーマシーンズが好調  
 
 価格が5万円を切るデスクトップパソコンを販売するイーマシーンズは、日本市場に参入して以来、売れ行きが好調に推移している。
 BCNランキングによると、デスクトップ部門における2月14-20日のメーカー別販売台数シェアで、イーマシーンズは21.6%と2位を獲得。機種別台数シェアでは、「J2955」が6.3%でトップ。同製品は、発売週の1月17-23日はトップを逃したものの、1月24-30日から4週連続で首位をキープしている。
 同社が日本の店頭市場で成功しているポイントは、チャネル戦略にある。同社製品を扱うパソコン専門店や家電量販店を極端に絞り込み、取扱店舗が各地域で競合しないようショップを選定している。
 日本市場参入当初の購入者はパソコンマニアが中心だったが、最近は会社員など中級者が購入するケースも増えている。しかも、「高利益が確保できるパソコンでもある」と取り扱うショップは口を揃える。
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