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<BCN REPORT>マックワールドカンファレンス&エキスポ2005 2年目のボストンは大盛況

2005/07/25 18:45

週刊BCN 2005年07月25日vol.1098掲載

 7月11日から14日まで、米国東海岸最大のアップルコンピュータ関連のイベント、「マックワールドカンファレンス&エキスポ2005」がマサチューセッツ州ボストン市で開催された。一昨年までこのイベントはニューヨーク市で開催されていたが、昨年からボストンでの開催になった。2年目の今年はようやくボストンという街に馴染んできた感もあり、またiPod人気に支えられ来場者の幅も大きく広がった。またアップルコンピュータ自身の好調な業績を反映して、イベントは大盛況だった。(ボストン発)(田中秀憲(ジャーナリスト)●取材/文)

好調なiPodが後押し

■会場のあちこちで積極的なデモ

 米国でも最も古い町の1つであるボストン。街並みは石畳や古い建築物が多い。そんななか、イベント会場前の電話ボックスにはiPodのデザインが施され、イベントを盛り上げる。今年の会場はハイネス・コンベンションセンター。ここはボストンの中心地にあり、会場へは多くの人が足を運んでいた。

 昨年のイベント会場は建築途中の新しい施設で立派だったが、ボストンの中心地からやや離れていた。それが今年はボストンの街並みとiPodやマックがうまく融合しているように見え、今年の会場の選択が成功であったことが理解できる。

 開催期間中の7月13日に発表されたアップルコンピュータの2005年第3四半期(4-6月期)決算報告では、売上高35億2000万ドル、純利益も前年同期比5倍以上の3億2000万ドルと、いずれも四半期ベースでは過去最高だった。売り上げに貢献したのはもちろんiPod。ワールドワイドでの出荷台数は600万台を超え、その多くがiPod shuffleであったという。

 その勢いを反映してか、今年のイベントは近年にない盛況ぶりだった。数多く行われた基調講演やセミナーは充実。ここ数年はややアップルコンピュータとは距離を置いていた感のあるアドビシステムズやクオークなどの大手ソフトウェアメーカーも大規模なセミナーを実施した。リリースされたばかりの新OS「Mac OS X タイガー」についての講習会も多く開催されていた。もちろんグラフィックス分野や、iPodによって優位性を増した音楽制作関係分野で、アップルコンピュータの地位は秀でており、会場内ではあちこちで積極的なデモが繰り返されていた。

■iPodをビジネス市場で

 今やiPod人気は絶大であり、アップルコンピュータにとってはマックと共に同社の大きな柱となっている。イベント3日目(7月13日)は「iPod Day」と銘打たれ、iPodや音楽ダウンロードサービス「iTunes Music Store」関連の講演などが数多く行われた。スキンと呼ばれるiPod用ケースをはじめとする関連製品や車載用のキットなども数多く展示され、時と場所を問わずにiPodを楽しめるような環境がますます充実してきたことが分かる。

 実際に会場に来ていたアナリストたちの中には、「マックワールド」と名付けられたこのイベントとは別に、「アイポッドワールド」を開催することになるのも時間の問題ではないかといった意見も聞かれ、今後アップルコンピュータがiPodをどのように成長させていくのかが注目されている。

 このiPodの人気を背景に、ビジネス市場をiPodで切り開こうとする企業も出てきている。カリフォルニア州の韓国系企業、シンクフリー(http://www.thinkfree.com/)は、マイクロソフトのパワーポイントで作ったプレゼンテーション用スライドをiPod上で再現するソフトウェアを展示。これまで個人で楽しむことで人気を博したiPodが、今後はビジネスシーンへその活躍の場所を広げる可能性を示唆する製品として、その可能性に期待が持たれていた。同社のT.J.カンCEOは若い起業家。同社以外にも数社が出展していた韓国系企業と共に、米国ITビジネス界でも“韓流”を巻き起こすかもしれない。

 女性向けのiPod関連商品を販売しているデラポッドデラリュウデザイン(http://www.delapod.com/)は、iPod専用の収納場所を備えた女性向けハンドバッグを販売。アイキーチェーン(http://www.ikechain.net)は、トラックが踏んでも大丈夫なほどの頑丈さを備えたiPodシャッフル用ケース「iキーチェーン」を発売するなど、さまざまな企業がiPod市場を開拓しているのが今年の特徴だった。

■ベンチャー企業が数多く出展

 また、マック用セキュリティ関連製品を開発しているコアプロ(http://www.coreproinc.com/)のように、日本での提携先を捜している企業も目立った。同社をはじめとして、新進のベンチャー企業が特に多いのがマック関連のイベントならではである。各社の展示方法やデモの内容は、来場者の関心を集める工夫が随所になされており、しかも他のIT関連イベントとは異なりカジュアルな印象を与えることが多いのはいつも通りである。

 昨年、長らく行われていたニューヨークでの開催を取りやめ、ボストンへと移った時点で、アップルコンピュータ自身はこのイベントに出展していない。また、昨年の会場はボストンの中心部からはやや離れたところにあり、しかもまだ建築途中の大規模施設だったこともあり、いささか寂しい雰囲気だった。

 しかし、今年の熱気は昨年の不安を一掃するものであり、iPodが作り出した多様で幅広い関連市場は、会場を埋め尽くす出展企業に華やかさを与えることとなった。ボストンは、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学など高等教育機関が集まり、歴史的な街は文化的な資質も高い。西のサンフランシスコに対し東のボストン、というのは考えてみれば非常に良い組み合わせにも思える。来年以降もこの盛況さが続くことは間違いないと思えるほど、大成功の今年のエキスポだった。
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