店頭流通

人気ゲームの最新作に隠れコンテンツ発覚 米国で回収騒動に

2005/08/08 16:51

週刊BCN 2005年08月08日vol.1100掲載

 世界で4400万本以上を売った人気ゲーム「グランド・セフト・オート(GTA)」のシリーズ最新作に露骨な性描写が隠されていたことが今月発覚、米国で回収騒動が起こった。ゲーム愛好家が解除プログラム(MOD)を公開して騒然となるなか、ヒラリー・クリントン上院議員がゲーム規制強化の最前線に立った。

 「GTAサン・アンドレアス」は、ニューヨーク拠点のテイクツーの子会社ロックスターゲームズが手掛ける人気シリーズの最新タイトル。2004年秋発売のプレイステーション2(PS2)版に続き、今年6月にはパソコン版とマイクロソフトのXbox版が登場、暗黒社会のハードなアクションが話題を呼んでいた。

 問題のソフトはパソコン版。17歳以上が対象のM指定として一般小売店で普通に売られていたのだが、オランダに住む愛好家が隠れコンテンツを発見。解除プログラム「ホットコーヒー」を6月にネットに公開したことで情況は一変。このMODさえダウンロードすればM指定のお手軽入手ソフトで誰でもわいせつゲームが楽しめるという妙な具合になってしまった。

 カリフォルニア州議会で7月に入って問題視する声が高まり、ゲーム評価機関のエンターテインメント・ソフトウェア・レーティング・ボード(ESRB)が「審査段階で製造元が全コンテンツの開示を怠ったのでは」と調査を開始。ロックスターゲームズは13日の声明で、「ホットコーヒーは公式版のソースコードをハッカーグループが解体後リコンパイルしたもの」とし、第3者の改ざん内容まで製造元は関知しないという立場を取った。

 しかし7月14日にはヒラリー・クリントン上院議員が「コンテンツの出元を特定し、M指定で妥当かどうかの見直しも含め早急に対応すべき」と連邦取引委員会(FTC)に調査を働きかけ、もはやメーカー側の説明で収まる問題ではなくなってしまった。

 同議員は暴力・性描写を含むゲームを未成年者に売った店には5000ドルの罰金を科すことなどを盛り込んだ新法案成立を柱とする規制強化運動に乗り出した。一方の下院議会も親会社と同社の調査をFTCに命じる決議案を355対21で可決、「モニカとビルの情事以来」(ポスト紙)の大騒動に発展した。

 FTCの調査報告はまだだが、MODを公開したプログラマー自身が「自分は本体にあらかじめあった内容を解除しただけだ」と語ったことで、製造元も自社社員が開発して本体に隠した事実を遅まきながら認めた。

 ESRBは急きょM指定をAO指定(18歳以上の成人対象)に変更。小売り大手のウォルマート、ベストバイ、ゲームストップが軒並み販売を中止し、製造元も問題のシーンの入った製品の製造中止を決め、アダルトコンテンツ抜きの新バージョンとして年内に改めて売り出す方針を明らかにした。

 今回問題となったような隠れコンテンツは、俗に“イースターエッグ”と呼ばれ、数多くのゲームに潜んでいる。誰もプレイできないようロックするぐらいなら削除すれば良いだけの話に思えるが、エッグハンティングを生き甲斐とするマニアへの配慮からか、削除せずに隠して売り出すケースが多い。

 GTA叩きのとばっちりを受けたのはエレクトロニック・アーツ(EA)だ。同社の人気ゲーム「ザ・シムズ2」もMODを入れると登場人物を丸裸にすることが可能なため、「製造元として何らかの対策を講じるべき」とフロリダの検事から早くも指摘を受けた。同社のローレンス・プロブスト会長兼CEOは「ソフトを台無しにする人のことは放っておくのがEAの方針だ」としたが、さて、どうなるか。

 ちなみに一連のサン・アンドレアス騒動は7月末に新たな局面を迎えた。今度はニューヨークに住む85歳の女性が「成人向けとは知らず孫に買ってしまった」として全購買者への損害賠償を求め地裁にメーカーを訴えた。しかし孫の実年齢は14歳でM指定にも3年足りない。

 EAのプロブスト会長兼CEOは、「ゲームの指定制度は真っ当に機能している」としたが、やはり完璧とはいかないようだ。(市村佐登美)
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