店頭流通

“iTunes携帯”で音楽配信と電話が合体 音楽配信ビジネスの盛り上げ役に

2005/09/26 16:51

週刊BCN 2005年09月26日vol.1106掲載

 米国では、アップルコンピュータが提供しているオンライン音楽ファイルの再生/管理ソフトウェア「iTunes」が携帯電話に進出する気配を見せている。その名も“iTunes携帯”。iTunes携帯とは、アップルの携帯音楽プレイヤー「iPod」と同様に、iTunesで管理される音楽ファイルが再生可能な携帯電話である。iPod+携帯電話は、音楽配信ビジネス市場のさらなる盛り上げ役となるか。

 アップルが提供するオンライン音楽サービス「iTunes Music Store(iTMS、アイチューンズミュージックストア)」は、オンラインで音楽ファイルを配信するというビジネスを初めて成功させた。ナップスターやグヌーテラに代表されるPtoPによる音楽ファイル交換の時代を経て、これまで中小さまざまなベンダーが音楽配信ビジネスに挑戦してきた。だが音楽ファイルのデジタル著作権管理(DRM)の複雑さ、商品のラインアップ不足、高い価格設定などの問題から、なかなか市場がブレイクすることはなかった。

 一方、iTMSは比較的シンプルなDRM、豊富なラインアップ、1曲99セントという価格設定で瞬く間に市場へ浸透した。そしてiTMSの地位を確固としたのは、携帯音楽プレイヤーiPodの存在だ。

 これまで音楽ファイルの再生にはMP3という形式の音楽ファイルが広く利用され、携帯音楽プレイヤーもMP3の再生を中心としたものだった。

 だがMP3はDRMのような機構は備えておらず、楽曲を販売するというビジネスに利用することは難しかった。つまり、iTMS、iPod、そしてiTunesの3点を組み合わせることで、パソコンを使ってiTMSから曲を購入・管理し、iPodで音楽を聴くというスタイルを作り出したのである。

 アップルによれば、現在までにiTMSから購入された楽曲の数は約5億、音楽ライブラリの数は200万、ユーザー数は1000万人に上るという。そして世界での市場シェアは85%にも達すると、同社では主張している。

 現在iPodは、大容量ハードディスクドライブ(HDD)を搭載した無印iPod、携帯性を重視したiPod mini、手軽に利用できる半導体メモリ型モデルのiPod shuffleの3種類のモデルが用意されている。そして9月上旬に米アップルが開催した製品発表会で、iPod miniの後継となるiPod nanoが発表された。

 iPod miniが小型HDDを搭載したモデルだったのに対し、iPod nanoでは同容量の半導体メモリを採用することでより小型化を実現しつつ、さらにライバルの半導体メモリ搭載型携帯音楽プレイヤーと比較しても、さらに低価格を実現している。そしてiPodの4つめのバリエーションとしてアップルが準備していたのがiTunes携帯だ。

 iTunes携帯は、携帯電話の中にiTunesプレイヤーの機能を搭載し、携帯電話をiPodのように利用できる製品だ。このプロジェクトは2004年夏にアップルと携帯電話メーカー大手の米モトローラとの提携から始まったもので、当初は05年春ごろのリリースが予定されていた。だが携帯電話を提供する通信キャリアとの調整などの問題もあり、約半年にわたって発表がたびたび延期されてきた。そしてモトローラが開発したiTunes携帯「モトローラROKR」は9月上旬のアップル主催のイベントで、「iPod nano」と同時デビューを果たすこととなった。

 アップルではモトローラROKRをiTunes携帯の第1世代の製品と位置付けており、今後もシリーズ化する意向のようだ。現在はモトローラからの製品のみだが、今後は他の携帯電話メーカーのほか、アップル自身が自社ブランドでiTunes携帯をリリースする可能性もある。

 iTunes携帯のメリットは、携帯電話を使ってiTunesの楽曲を再生することにある。もともと近年のトレンドとして、スケジュール管理や電子メール機能を組み込んだ高機能携帯「スマートフォン」や、音楽ファイルやビデオ映像が再生可能な携帯電話など、携帯電話にさまざまな機能を統合する傾向があった。今回発表されたiTunes携帯もその延長線上にある。現在のところROKRは、楽曲の購入や転送でパソコンとの連携が前提であり、パソコンを持っているユーザーでなければ音楽を楽しむことができない。もし今後、iTunes携帯だけで曲の購入や管理が行えるようになれば、オンライン音楽販売ビジネスはさらに発展していくことになるだろう。(鈴木淳也)
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