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セイコーエプソン プリンタ首位奪取の裏に収益悪化の厳しい現実 3Q決算不振で収益力改革へ

2006/02/06 18:45

週刊BCN 2006年02月06日vol.1124掲載

 セイコーエプソンが2005年度第3四半期(3Q)の連結決算の不振を背景に、通期見通しを最終赤字へと下方修正した。同社は、9月、10月と2度目にわたる売上高の下方修正を発表しており、今回の修正が3回目。「資本市場の信頼、信任を大きく損なった」(花岡清二社長)、「10月の修正値から見ても、第3四半期は不本意な結果」(木村登志男副社長)と経営トップのコメントも反省の弁が相次ぐ。市場変化への対応が遅れる社内体質の問題や、電子デバイス事業の不振を材料とする見方もあるが、主力のインクジェットプリンタ事業の体質転換も早急の課題といえそうだ。

 セイコーエプソンが発表した第3四半期の連結決算は、売上高が前年同期比5.9%増の4551億円、営業利益は44.7%減の171億円、経常利益は35.8%減の179億円、当期純利益は55.6%減の90億円と増収減益となった。

 利益を圧迫したのは、電子デバイス事業における半導体の不振、液晶ディスプレイの価格下落による影響のほか、事業構造改革再編費用の172億円をはじめとする特別損失187億円を計上したことが響いている。

 花岡社長は、今回の決算発表の場で、「収益力強化改革プラン」を発表。さらに、3月16日には、中期経営計画を発表する予定を明らかにし、生産体制の見直しなどの固定費圧縮を軸とした電子デバイス事業の改革、これによる同事業の早期黒字転換や、契約社員を対象とした3000人の削減、3年間での投資回収可能な企業体質への転換などを図る。

 電子デバイス事業の構造改革では、今後2年間で420億円の費用を予定。今年度中に100億円規模の構造改革予算を追加する方向で検討しているという。

 「エプソンの強みが生かし切れていない。環境変化への対応力が不十分。さらに、コスト作り込み力不足や短期投資回収力不足といった収益力にも課題がある。これが収益性の大幅な低下をもたらし、計画の未達を繰り返すという結果になっている。まずは中期計画をやり遂げることができるマインドを社内に醸成することが必要だ。モノづくり企業として、収益を回復すること、中長期の成長を描く体質へと転換することが必要」と花岡社長は語る。

 だが、こうした電子デバイス事業の再編や、社内体質の転換とともに、忘れてはならないのが同社の中核事業となるインクジェットプリンタ事業の構造改革だろう。

 インクジェットプリンタを主力とする情報関連機器事業の第3四半期の実績は、売上高が前年同期比6.3%増の2970億円、営業利益が26.1%減の151億円の増収減益。全社業績と比較しても、売上高の成長率は高く、減益率は低い結果となっている。

 しかし、プリンタ事業が抱える問題は大きい。第3四半期のマルチファンクションプリンタ(MFP)の販売実績は、前年同期を上回る。本来ならば、その売上高増加に利益が連動しなくてはならない。

 木村副社長は、「MFPの機能付加による製造原価上昇の一方で、販売単価が下落したことが収益悪化の要因のひとつ。加えて、販売高が前年実績を上回っても、当初計画に対しては未達だったことも収益性に影響している」と指摘する。あるプリンタメーカー関係者は、「本音をいえば、利益率が低いMFPは売りたくない」と漏らす。それが平均単価で10%以上下落し、販売計画も未達だったのだから、利益を大きく圧迫するのは明らかだ。プリンタ事業出身の花岡社長も、「MFPへと主力が移行するなかで、本体の採算改善の遅れが、プリンタ事業の問題点」と指摘する。

 さらに追い打ちをかけたのが、互換インクの広がりを背景にした純正インクの使用率の減少だ。プリンタ事業はインクの販売による収益回収モデルといわれる。その収益源の縮小は、直接的打撃につながる。

 04年にトップシェアをキヤノンに譲ったエプソンにとっては、05年のトップシェア奪還は至上命題。05年は商戦期だけでなく、年間を通じて主要店舗に販売支援担当者を派遣する異例の措置を講じたが、これも利益にはマイナスの要因となった。

 トップシェア奪還という栄誉を得た一方で、収益悪化という苦境に立たされたエプソン。MFP中心の市場のなかで、健全な収益性を維持できるビジネスモデル、事業体質へと転換できなければ、首位奪還も手放しでは喜べない。
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