大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>5.「すべてをフルHDにする必要なし」とする松下の本音

2006/06/26 16:51

週刊BCN 2006年06月26日vol.1143掲載

 松下電器産業が、驚くべきメッセージを発信した。なんと、「50インチ以下の薄型テレビには、フルHDは不要」というのだ。

■利用環境から導き出した結論

 シャープは、今年度中に37インチ以上の液晶テレビのラインアップを、すべてフルHD化すると発表した。富士通日立プラズマディスプレイズも、42インチプラズマテレビのフルHD技術を発表し、来年春にも製品化する計画。そして、ソニーも、「Full HD 1080」のロゴをつくって、薄型テレビのみならず、ソニーブランドのあらゆる製品において、フルHD化を切り口に展開しようと考えている。

 業界全体がフルHD化に進むなかで、松下電器だけが一線を画した展開を行っているのである。

 実は、松下電器はフルHD化で後れをとっている。同社薄型テレビでフルHD化しているのは、103インチおよび65インチのみ。昨年11月には、50インチのプラズマパネルにおいて、フルHD化技術を発表。これを年度内に製品化することを明らかにした段階だ。

 プラズマは、液晶に比べてフルHD化が図りにくいという技術的な壁があるものの、同じプラズマ陣営の日立が42インチという領域まで、フルHD化に挑んでいる積極ぶりとは対照的ともいえる。

 では、なぜ松下電器はフルHD化に消極的なのか。

 松下電器パナソニックAVCネットワークスの森田研上席副社長は、「フルHDには、それを生かす画面サイズがある」と指摘する。 松下電器によると、映画館のような臨場感を再現するには45度の画角(画面と見る人の角度)が最適だそうだ。また、スポーツ映像でスタジアムの臨場感を再現するには30-35度の画角が適しているという。日本の住環境では、1.8メートルという距離が、薄型テレビの最低視聴距離の前提となるが、ここから逆算した場合、65インチのプラズマテレビでは2H(画面の高さの2倍)、50インチでは3Hの距離となる。2Hではその距離感からフルHDでないとノイズが見える。一方、3Hであれば一般のHDでも、画素やノイズはほとんど気にならないという。

 「こうした利用環境から、画面サイズによって、最適な画素数が求められる。すべてのユーザーに、高額にならざるをえないフルHDを購入していただく必要はない。日本での利用環境を考慮すれば、フルHDの威力が発揮できるのは、50インチ以上となる」

■画素数での競争を避けた?

 また、同社では、こうも語る。 「静止画であれば画素数は重要。だが、動画を映し出すテレビは、画素数に加えて、動画再現性や色再現性、高解像度に見合った高い階調性を実現するといったトータルバランスこそが大切」

 フルHD化が進むなかで松下電器は、議論の土俵をフルHDによる画素数競争から、プラズマが得意とする応答性や黒の色再現性などへと変えようとしている。

 ただ、気になるのは、このメッセージが理解しにくいことだ。2H、3Hという言葉や、画角という言葉が一般的でないのに対して、フルHDの一言のほうが、ユーザーに直感的に「良さ」を伝えやすい。だが、松下電器のことである。きっと、もう少しわかりやすいメッセージで、次の一手を打ってくるはずだ。
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