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<BCN REPORT>W杯需要に沸く欧州 FIFAスポンサー東芝と市場動向(上)

2006/06/26 18:45

週刊BCN 2006年06月26日vol.1143掲載

 世界中が熱戦の渦に巻き込まれる「2006FIFAワールドカップドイツ大会」。東芝(西田厚聰社長)は、日本と韓国が共催した前回大会に引き続き、「オフィシャルITパートナー」を務めている。世界最大で延べ300-400億人が観戦するとされるワールドカップをIT面で支援する一方、社名「TOSHIBA」の露出による宣伝効果を利用して、AV(音響・映像)機器やパソコンなどの需要増を狙っている。同社は、今大会の世界的な経済効果をワールドカップが開催されない例年の1.5倍と算出。「薄型テレビ」に限れば、欧州地区で4-5月は売上高ベースで前年同月比150%増に達した。閑散期となる7月以降も、欧州では大会の余勢をかってシェアを伸ばせると見ている。(谷畑良胤●取材/文)

東芝の薄型TV、欧州は150%増に
世界経済効果1.5倍を期待

■FIFA、東芝製ノートを大量導入 信頼性、耐久性で評価得る

 FIFAは東芝からノートパソコン2000台以上を購入した。来場者や職員などの認証用端末、FIFAスタッフや大会組織委員会の職員、競技場運営に協力をするボランティアに提供された。このほか、12会場の記者が利用する「メディアセンター」に計100台以上のノートを配置した。スポンサーということもあるが、「腰の高さから落としても、ハードディスク(HDD)や各機能が不能にならない実験を繰り返している。信頼性や耐久性が評価された」と、欧州地区の報道担当責任者、マニュエル・リニング・パブリックリレーションンズマネージャーは、FIFAに選択された理由をそう語る。

 大会開催に向けてパソコン設置の準備を開始したのは2年前。IPインフラ会社のアバイアや地元キャリアのドイツテレコムと共同で、携帯電話やモバイルなどのネットワーク環境を考慮しつつ、ソフトウェアやハードウェアのパフォーマンステストを繰り返した。

 大会期間中の4週間は、現地で25万人のユーザーがアクセスを要求し、チームや審判、メディア、運営スタッフなど約5万人がインターネットにアクセスする。期間中に一時的に敷設した約8000キロに及ぶネットワークケーブル上を流れるデータ量は、最大15テラバイトに達するという。それだけに「耐久性やバッテリ寿命の長さ、情報漏えい防止対策の有無など、すべての面でクリアできるノートが求められた」(リニング・マネージャー)という。

 欧州のノート市場は、東芝が1985年、西田・現社長が欧州担当時代に16ビットのラップトップパソコン「T-3100」を持ち込んだことでつくられた。東芝が「ノートのパイオニア」であることは欧州人の知るところだ。「ワイヤレス機能やTFT、セキュリティ機能など自社開発する数少ない技術力を持ったメーカーと認知されている」(リニング・マネージャー)。欧州市場で引き続き高いシェアを維持するが、ワールドカップを契機にさらに市場を拡大できると東芝では見ている。

■薄型TV市場 05年は倍増し800-900万台

 一方、欧州では昨年から、「薄型テレビ」ブームが巻き起こっている。欧州地区のAV機器販売を行う東芝情報システム英国社によると、薄型テレビの販売台数は欧州全体で04年が400-500万台、05年は倍増し800-900万台に達した。06年はワールドカップ効果やデジタル放送が段階的に始まることが影響し、欧州の各種調査会社が1400万台を超えると推計しているという。日本のテレビ市場は、ブラウン管を含めて年間800万台といわれる。欧州市場は薄型テレビだけでこの数字を抜いて、北米に次ぐ市場規模に成長した。

 同英国社の安部嘉男社長は「今は、クリスマス商戦が何度もきている状態」と、イギリス南西部にあるプリマスの工場をフル稼働するほか、欧州全体で広告費20億円を投じ、新製品を1か月前倒して出荷するなど「万全の体制で臨んでいる」という。ハイビジョン画質を売りにする世界統一ブランドの液晶テレビ「REGZA(レグザ)」の販売は、欧州で佳境を迎えているのだ。

 欧州市場は4月、薄型テレビが前年同月比2倍以上の伸びを記録。イギリスでは同240%、フランスが同200%、開催国のドイツが同230%に伸長した。東芝だけに限れば、平均伸び率をさらに50%上回る勢いを示した。だが、「期待が大きすぎたため、思い通りの成果を得られなかった」(同)と、なかなか立ち上がらないドイツ市場に一喜一憂したようだ。

 東芝に限らず、他のメーカーもドイツ市場でAV機器販売の“特需”に期待して増産。このため、各社とも4月は在庫の山を築いた。そこで東芝は4月後半、欧州全体で薄型テレビの半数を占める32インチ液晶テレビを1200ユーロ(日本円で約18万円)から999ユーロ(約15万円)に値下げし、ようやく需要を伸ばし軌道に乗れたという。

■HDD搭載DVDレコーダー 普及遅れるが離陸間近に

 ドイツでは、昨年から「16対9」のワイド画面が普及期に差し掛かっているが、それまでは「4対3」画面が主流だった。フランクフルト郊外の大手家電量販店「メディアマルクト」では、「日本対オーストラリア戦」の1週間前までブラウン管が占めていたテレビコーナーを薄型テレビに入れ替えている。「HD(High Definition=大容量光ディスク)ready」のマークが入ったテレビ以外は売れない状態だ。「ハイファイの需要が最も早くきたドイツだけに、画質などクォリティを追及する国民性がある。製品力の高い当社にはチャンスだ」と、ドイツ市場のAV機器販売を担当する東芝システム欧州社の西村弘志・副社長は期待する。

 ドイツ国内の各種調査会社によると、テレビ市場での東芝のシェアは例年6%程度。しかし、5月末現在(1-5月)は10%程度までシェアを拡大し、瞬間風速で15%程度まで達した週もあったという。

 薄型テレビが普及期に差し掛かる一方、欧州ではHDD搭載のDVDレコーダーは、売れ行きが伸びる気配がない。ドイツでは「HDDに録画する文化がないし、操作が難しいとのイメージがある。普及にまだ時間がかかるが、1-2年で伸びてくるはず」(西村副社長)と分析している。

 BCNランキングによると、日本での薄型テレビはワールドカップ前と最中を比較すると、台数は約160%の伸びを示した。この成長率は「日本チームの活躍次第でまだ伸びる」可能性があった。一方の欧州では、ドイツ、イングランド、スペインなど有力候補が順当に勝ち上がり、まだまだ需要が期待できそうである。

・(下)に続く
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