大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>7.レノボが打ち出した低価格戦略の勝算は

2006/07/10 18:44

週刊BCN 2006年07月10日vol.1145掲載

 今年5月、レノボ・ジャパンが設立1周年を迎えた。この1年を振り返ると、レノボが追求し続けたのは、「変わらないこと」への挑戦だったといえる。

 ThinkPadに代表されるように、日本IBM時代から培った、モノづくりへのこだわりと、それに裏打ちされた信頼が、IBMからレノボへと会社が変わっても一切変化しないことを、常に訴え続けてきたのが、この1年だった。

■第3世代への進化を迫られる

 その「変わらない」取り組みのなかで、ThinkPadはひとつの転換期を乗り越えなければならなかった。それは、ThinkPad生みの親である内藤在生副社長が示す、第3世代への進化である。

 第3世代とは、十分なパワーを実現するThinkPadの実現だ。

 とはいえ、アプリケーションの処理速度の向上や、動画再生時に十分なスペックを満たすためのパワーアップではない。モバイル環境においてもストレスなく利用するための性能向上、オフィスでデータをバックアップしたり、アンチウイルスソフトによるスキャンなど、業務に必要のない部分にリソースが割かれていても、十分な性能を発揮する環境を実現するためのパワーアップだ。

 そして、この第3世代への進化では、キーボードや電源アダプタの見直しなど、細かなパーツまで改良が及んでいる。随所にみえる品質へのこだわりは、ThinkPadのDNAが確実に引き継がれていることを証明してみせたといえる。

 しかし、1年を経過し、レノボは新たな挑戦を開始した。

 ThinkPadなどのIBMブランドによる付加価値戦略を維持しながらも、Lenovoブランドによる低価格戦略を開始したのだ。

■高付加価値と低価格の両立

 6月6日、レノボはB5ノートPCの「Lenovo 3000 V100」を発表し、Lenovoブランドのラインアップを完成させた。同時に打ち出したのが「プライスアクション」と呼ばれる低価格戦略だ。デルや日本ヒューレット・パッカードが得意とするこの施策は、台数限定、あるいは期間限定でのキャンペーン価格による広告を新聞紙上に掲載。いわば価格だけで訴求していくという手法だ。そのために、受注生産が主流だった仕組みに、レノボ自身が在庫を抱えるというビジネスモデルを導入。即日出荷の体制を作り上げた。

 また、競合他社の動きを見て、価格を柔軟に変更できるように、従業員数500人以下の企業を対象とするビジネス開発事業部(Transactional Sales)内に、新たなチームを発足。価格決定に関する権限を委譲して、価格面における競争力を迅速に発揮できる体制としたのだ。

 レノボは、Lenovoブランドの製品に限定しながらも、いよいよ低価格を前面に打ち出した展開を開始した。これまでの日本IBMにはなかった施策でもある。

 だが、その一方で、レノボは付加価値戦略と低価格戦略の2つのビジネスモデルで展開することになる。そして、そのビジネスモデルでは、ThinkPadとLenovoの2つのブランド製品が一部重複している。この戦略がシナジーとなるのか、あるいは単なるスキームの重複となるのか。その舵取りはレノボ自身にかかっている。
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