大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>15.商品ベースで中期経営計画を策定する松下の狙い

2006/09/11 18:44

週刊BCN 2006年09月11日vol.1153掲載

 松下電器産業の大坪文雄社長が、中期経営計画の策定に乗り出している。

 その策定方法に、大坪社長は新たな手法を持ち込んだ。それは、「商品」をベースにした積み上げ方式である。

■商品単位で3か年計画を求める

 これまではビジネスユニットごとに事業計画を策定、商品個別という観点では、主要製品分野だけがトップの関心事であった。

 だが、大坪社長は中期経営計画の策定にあわせて、ほとんどの「商品」に3か年計画を求めた。

 重要な商品ごとにスペック、価格、他社との競争状況、シェア、ポジション、コスト構造、収益を明確化するとともに、来年、再来年にはこれをどう成長させるか、他社との差別化要素は何か、マーケティング施策はどうするか、克服すべき技術課題は何か、といったことを3か年にわたって、明示するというわけだ。

 社内では、「これまで取り組んだ経験がないだけに、予想以上に時間がかかっている」と、まずは、仕組みづくりや意識改革から取り組んでいることを明かす。それでも、大坪社長はこの徹底を図る。

 では、大坪社長は、なぜ、ここまで「商品」にこだわるのか。

 それには2つの理由がある。

 ひとつは、商品にまで落とし込むことで、計画が狂った時の修正を最小限に押さえ込もうという狙いだ。同時に、今後、中期経営計画を毎年ローリングしていく上で、商品を前提として積み上げていったほうが、これを実行しやすいという側面も見逃せない。

 電機各社が置かれた立場は、まさにオセロゲーム。今日の勝ち組が一転して負け組になる可能性もある。こうした市場環境では、商品ごとに明確な事業計画を持たせることが重要だというわけだ。

 「商品ごとのシナリオが描けていれば、どんなことが起こってもいち早く修正ができるはず」と大坪社長は語る。

■「破壊」から「創造」のフェーズへ

 そして、もうひとつは、強い「商品」をつくることが、強い松下電器の創造につながるからだ。

 松下電器は、2010年に営業利益率10%の達成と、グローバルエクセレントカンパニーへの仲間入りを目指している。これを実現するために、強い商品が必要不可欠な要素であると、大坪社長は判断している。

 「中村(前社長)改革は、『破壊』ばかりがクローズアップされているが、V商品をはじめとした強い商品による『創造』がなければ成しえなかった。今後、成長へのフェーズチェンジを推進するなかで、これまで以上に強い商品を創出することが不可欠」と言い切る。

 ここ数年、松下電器は他社にない商品を投入し、成長を遂げてきたのは周囲も認めるところ。だが、大坪社長はそれにも手厳しい。

 「他社にない商品が出てきているのは事実。しかし、これで、マーケットを圧倒したのか、経営として満足できるレベルに到達したのかというと、まだまだこれから。だからこそ、もっと商品ごとにがんばらなくてはならない」

 果たして、商品にこだわる中期経営計画とは、どんな形で現れるのだろうか。大坪社長が「サプライズはない」と言い切る中期経営計画だが、その策定方法は、すでにサプライズといえるものだ。
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